ACT49 受け継ぐもの
「あ、あの……」
「どうしたディア。準備は間も無く整うぞ」
忙しなく機器を操作するリューシンガが言う。
「い、いえ。なんでもありません」
「こちらは完了です。クロリヴァーン隊長」
「待たせたなディア。お前に〝聖女の心臓〟を託す。あの台座に立ってくれ」
「……はい、お兄様」
クローディアは従って部屋の中央の台座に立った。
(これまで聖女となった少女達は、どんな気持ちで居たんだろう――)
考えつつ、クローディアは目を瞑った。
容器が天井から下りてくるのが音でわかる。最後に密閉されたと感じたのは耳がキンとしたからだ。
(――紅き聖女ジゼリカティスとなったリッカも、此処に立ったのかな。その時のリッカも、今の私のように緊張と高揚感に胸を高鳴らせていたのかな。感想を聞いてみるのもいいかもしれない。また「オトメのヒ~ミツっ♪」と誤魔化されるかもしれないけれど、もしもまた聞ける機会があったのなら……)
その慣れない雰囲気に恐怖が掻き立てられる感覚は確かにある。
だが今のクローディアはそれよりも喜びが勝っていた。
(お兄様が、世界中の人々がきっと喜んでくれる。私は、それが嬉しい)
容器の中に液体が流れ込み、満たされ始める。
その水は暖かく心地良かった。
クローディアの緊張の糸が徐々に解れていく。しかしその感触は重たい。
ただの水ではない。その液体が指先にまで達すると、クローディアは激しい睡魔に襲われた。呼吸をすればするほど眠気は増していく。胸元まで押し寄せてきた頃には既に朦朧としていた。
そうして、程なくしてクローディアは眠りの中に落ちた。
その様子をリューシンガとルーゼイは端末で確認した。
すると目の前の端末に丸い窪みのある台が迫り出してきた。リューシンガが頷き、ルーゼイは自身の白外套から真紅の宝玉〝デザンティスの心臓〟を取り出し、端末に乗せようとしたが、一度躊躇った。
「……本当に、よろしいのですね」
「心配する必要は無い。私の妹だぞ?」
「そうでした」
ルーゼイはそっと台の窪みに宝玉を落とす。最初からそこにあったかのように宝玉は窪みに隙間なく嵌められる。それを認識して端末が機械的な声を発すると、宝玉を乗せた台は元あった端末の中へと格納された。画面がそれを〝デザンティスの心臓〟だと認識。青白く輝いていたクローディアの眠る容器が、宝玉と同じ真紅へと色を変えていく。
重力から解き放たれたかのように浮かぶクローディアは、その間も眠っていた。
クローディアの左胸が白い光を放つ。
「あれが〝聖女の心臓〟か」
リューシンガはクローディアを見た後、端末の中に収まっている宝玉へと視線を移した。宝玉そのものが心臓の役割を果たすわけではない。周囲の装置と同じく、この宝玉もまた一定の働きをするだけの機械に過ぎないのだ。そしてこの場合、宝玉は〝聖女の心臓〟を起動させ、聖女へと導入する為の鍵として機能している。
リューシンガとルーゼイがその儀式の完了を待ち望んでいる間、眠るクローディアの意識は深くも安らかな夢の中にあった。
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