ACT44 聖女に仕える者

「真に聖女様に仕えたくば、我等につけ」

 その日、最終試験を目前に控えていた学園都市スレイツェンの騎士選抜候補生達は、突如して教官から告げられたその言葉に驚愕していた。

 候補生達は互いに互いの目を見合わせ、この状況を乗り越える為の模範解答を探す。その人生最大の賭けに、誰しもが悩んだ。

(これは、謀反なのではないか?)

 候補生達は考える。

 もしも、このまま反乱に乗じて成就させれば、その地位と名声はこれから得られる下っ端騎士とは比べ物にならないものとなるだろう。だが失敗すれば聖女様に背いたとして死罪も免れない。

 この世界で起こっていることは、全て教官の口から聞いていた。

 聖典騎士団の陰謀と、百年前の戦争の真実。だがその話が嘘とも限らない。俄かには信じ難い話だ。

 しかし、もしかするとこれそのものが最終試験であり、ここで教官の口車に乗って革命側に付くような態度を示せば、叛逆の余地有りとして、篩い落とされてしまうかもしれない。

「……聖典騎士団とエクザギリアの民は蒼き聖女様を想い、蒼き聖女様はエクザギリアに住まう民を想い、それぞれの暮らしが未来永劫に亘って平和で穏やかであることを互いに祈りながら、今も共にたったひとつとなった大陸で命を育み続けているのです――」

 静まり返った部屋の中、候補生の一人が〝デザンティス物語〟の一節を引き、呟いた。

「――教官殿の仰ることが事実であるのなら、今の聖典騎士団は聖女様の騎士ではないということになる。それに俺は、聖女様を殺すような奴等は許せない。例えそれが憧れの、目指すべき目標だった聖典騎士団であったとしても」

「ならばどうする。我等と共に来るか?」

「俺は行きます。俺は、聖女様に御仕えする為に此処まで来ました」

「良かろう。貴様、名を名乗れ!」

「キランドル・メラノーグであります!」

 候補生――キランドルは、教官に対して毅然とした態度で敬礼した。

「貴様の志、しかと受け取った。我等と共に歩もうぞ! 他の者はどうする?」

 その声に、キランドルに続けとばかりに候補生達が次々と名乗りを上げた。

(悪い……ディアの姉御。俺は聖典騎士団に入るのをやめた。下手すりゃ裏切り者になってくたばっちまうかもしれねぇ。けどよ、姉御に夢があるように、俺にも譲れないものはあるんだ――)

 そう思いながら、キランドルはクローディアに殴られた頬を手でさすった。

 とっくに痛みも痣も消えている。

 なのに、じわりじわりとその感触が浮かんでくるような気がしてならない。

(――まるで戒めだ。また気合が足りないって怒られそうだ)

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