類友はカルマに従う 番外編2-⑩終

 頬が熱い。

 エクトルからのキスはどれも優しく胸を締め付けるような切なさを感じる。

 それでももっとして欲しいと思う羽琉の心中を見透かすように、エクトルは唇だけではなく羽琉の瞼や頬などに何度もキスを落とした。

 羽琉は自然にエクトルからのキスを受けながら幸せを噛み締める。

 不意に目を開けると間近にエクトルの美貌があった。そのエクトルの表情も幸せそうに微笑んでいる。そして額と額を合わせ、エクトルは目を閉じた。

「愛しています。何度言っても足りないくらい、羽琉への想いは尽きません」

 こうしていつでも言葉にも態度にも表情にも羽琉への想いを伝えてくれるエクトルに、羽琉も何かを返したいと思った。恋愛には不器用でこの想いをどう伝えればいいのか分からないが、羽琉もエクトルが幸せそうに笑う顔をずっと見ていたい。

 羽琉は愛おしい気持ちを抱えつつ、額を合わせたまま目の前で目を瞑り、幸せに浸っているエクトルの頬を両手で包み込んだ。

「……羽琉?」

 小さく驚いたエクトルは目を開けると合わせていた額を反射的に少し離し、頬を染めたままの羽琉を見つめた。

「僕も、です」

「…………」

「すごく好きで……どうしよう……。どう伝えればいいのか……」

 眉根を寄せる羽琉にエクトルは満面の笑みを浮かべる。そして自分の頬に添えられている羽琉の手にそっと自分の手を重ねた。

「大丈夫です。羽琉の想いは全て伝わっています。いつでも真っ直ぐ私の元に届いていますよ」

「……本当、ですか?」

「はい。だから私は毎日幸せです」

 羽琉の手を握り締め、しっかりと肯くエクトルに、羽琉は安堵の笑みを浮かべる。

「今度は羽琉からしてくれますか」

 羽琉は「え?」と言って目を丸くする。

「羽琉から私にキスしてくれませんか」

 エクトルの頬に添えている羽琉の手が動揺でピクリと震えた。だがその表情に拒否感はなく、狼狽えつつも照れて戸惑っているようだ。

 その様子を楽しそうに確認してからエクトルは目を閉じた。

「……」

 激しく動揺するが、羽琉からのキスを目を閉じて待つエクトルの美貌を見つめていると、羽琉は無意識に吸い寄せられるように顔を近付けていた。

 先程のエクトルのキスを思い出しながらのそっと触れるだけのキス。

 羽琉は緊張で唇の感覚がなかったが、それでもエクトルの口元は満足そうに微笑んでいた。ちゃんと触れることはできていたようだ。

「羽琉のキスは優しいですね。それに温かくて甘い」

 そう言いながら、エクトルは目をゆっくり開く。

「羽琉の愛、ちゃんと受け取りました。とても満たされた心地がします」

 自分の愛情をどれだけ返せたかは分からないが、エクトルのその表情を見ていると羽琉も同じ心地を感じた。想いが通じ合っていると、ここまでぴったりと感情がリンクするものなのだろうか。

 不思議に思いつつも、自分を見つめるエクトルの碧眼にドキドキしてくる。胸が苦しいのに、そのドキドキに浸っていたい気持ちになる。

「……羽琉の目がいつも以上に私への愛を伝えてくれています」

「え……?」

 エクトルと同じ熱を羽琉自身も放っていることに羽琉は気付いていなかった。

「来年も再来年もその次の年も……ずっとこうして羽琉と二人で誕生日をお祝いしたいです」

 そう言って幸せそうに目を細め、頬に触れている羽琉の掌にエクトルは唇を寄せる。

「!」

「もう少しこうして触れていたいのですが、ナタリーからの料理が冷めてしまうのは勿体ないので、温かいうちに食べましょうか」

 名残惜しそうに自分から離れるエクトルを少し残念に思いながらも、「……はい」と羽琉も肯いた。

 だが離れていく途中で、再びエクトルが素早く羽琉にキスをする。

 小さなリップ音をたて離れていくエクトルに、油断していた羽琉は目をぱちくりさせた。

「これからは不意打ちでキスしますのでいつでも覚悟していて下さいね」

 にっこりと微笑むエクトルにかっと顔を赤くした羽琉は、恥ずかしさとなんとも言い難いドキドキ感を感じつつ、羽琉に対して甘い熱を漂わせる恋人と過ごす最高のバースデーを幸せな笑顔で迎えた。


      ――END――

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