ラーナ
教官職になったカースは日々クラスの兵士の鍛錬に忙しかった。
この頃には、アデラとカースとラーナは同居していた。年齢も一つずつ増えた。
アデラは本来なら父である魔王ラファールと結婚させられる年齢となっている。
カースは、朝早くから自身の鍛錬をして、アデラにも組手をしてもらい、それから家を出る。
この時期になっても、まだAクラスは0名である。カイのような剣士がどれほど貴重だったのか、今更ながら惜しい人を犠牲にしたと思う。
カースはBクラス、Cクラスの兵士の鍛錬を見て回る。
中には、この人はという者もいて、声をかけたり、動きを教えてあげたりする。カースの実力は全員が分かっているので、誰もが喜んで手ほどきを受ける。
昼はラーナの作ってくれたお弁当を食べて、すぐにまたクラスの鍛錬を見て回る。
夕方から夜にかけて3時間はアデラに稽古をつけてもらい、夜にまたクラスに戻る。
帰りは夜中になる。
ラーナは心配そうに待っている。
カースとラーナはキスをしたこともなかった。
ラーナは、穢れた自分にはカースを受け入れる資格がないと思っていた。
カースは、ラーナのトラウマである性体験について、自分がさらに傷つけてはいけないと思っていた。
2人は、ただ、近くにいられれば、それで良かった。
アデラはそんな2人を見ながら、ちょっとじれったかった。2人が付き合わないのなら、カースと私が付き合ってもいいのだぞと。魔王ですら求婚した私と付き合える名誉など、人間には望むべくもないものだと。
見た目もアデラは、人の目を引くような絶世の美少女だった。ラーナはかわいい顔はしているが、アデラと比べると、少し地味である。
3人で食事をしている時などアデラはわざと胸元が空いた服を着ていることもある。
カースは顔を真っ赤にして、なるべく見ないようにするが、どうしても目がいってしまう。
ラーナは、黙々とごはんを食べるが、あきらかにイライラしている。
カースはラーナのイライラに気付いて、おどおどしだす。魔剣士と呼んで尊敬している兵士たちには見せられない姿だ。
ただ、アデラとカースがもし結婚したのなら、アデラは正式に人類側の戦力になり、それは人類にとっては大きい財産となる。おそらく、ガンツやナギがカースをアデラのところへ派遣したのはそのような目論見も多少はあったのだろう。
ラーナもそんなことは薄々分かっていた。カースは特別な人だ、だから、自分が独占するなんてできない。それでも、幼いころからずっと一緒にいたのは私なんだって。
カースとアデラは弟子と師匠でもあり、人類と魔人の接点でもありえた。
時折、カースがどこか遠くへ行ってしまうのではないか、そんな風にラーナには思えて寂しくなる。手を握ることもしない、最愛の人。
3人の生活はある日、終焉を迎えた。
ラーナの家族が植民地への入植を決めたのだ。ラーナは1人で中央集落に残ることも出来たが、家族と一緒に入植することに決めた。
カースを愛していた。誰よりも愛していた。自分だけの物にしたかった。キスしたかった。抱きしめて欲しかった。それでも、ラーナは諦めた。
カースは引き止めた。
ここに残りなよと。ラーナのことは一生面倒見ると。それでも、ラーナは泣き笑いの顔でさよならをした。
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