魔王の姫が家出をすると世界のバランスが崩れるか?~魔人の支配する世界で家畜となった人類の行く末~

神名 信

序章

食用人間

 いつからだろう。


 魔人が現れた。


 それまでも、人類はモンスターを駆逐してその勢力圏を伸ばしていった。


 ただ、魔人は違った。


 魔人は強大な魔力に腕力、それだけでなく知能と統率力があった。


 魔人の数は1万匹前後、それに対して人類は100万。


 地上の支配権をめぐって争いが起きた。最終戦争と呼ばれている。



 魔人の王、魔王ラファール率いる主力部隊は各地で人間側の軍隊を殲滅していった。


 今から250年前、人類は降伏した。


 その時には既に人類の人口は10万人程度まで減っていた。


 魔人には言語がなく、人と話すことはない。


 それでも、戦う意思が人類にないと分かると、人類を食用として、奴隷として魔人たちは利用した。



 魔人は、身長2メートル前後の者が多い。人と魔人の混血児も多数生まれているが、それは魔人と区別される意味で亜人と呼ばれている。


 魔人は亜人については同等の権利を認めているようであった。




 「クメル、何をしているんだ?」


 「勉強だよ、パパ、最近クヌイが教えてくれるんだ」


 「勉強?そんなことをしてどうする?」


 「魔人をやっつけるんだよ」


 「クメルは何を馬鹿なことを言っているんだ、そんな考えをしていたら、この村の者は全員魔人様に食べられてしまう」


 「パパたちがそんなんだから、魔人たちがのさばっているんだよ、俺たちはただの家畜じゃない」


 「クヌイはそんなことを教えているのか・・・懲らしめてやらないといかんな」


 「何を言っているの?パパ、クヌイは勇者だよ」


 「クメル、その本をよこしなさい」


 「え、パパ」


 本は剣術の基本が書かれているものだった、それを取り上げると父親は破り捨ててゴミ箱に捨てた。


 「なんで?魔人に打ち勝たないと、去年はママが食べられちゃったんだよ?順番だと、次はパパだよね?」


 「もう、来週には俺の番だな」


 「だめだよ、パパ、あきらめちゃ」


 「俺が逃げれば、クメルお前が殺される、クメルも逃げれば村人が殺される、逃げられない」


 「そんな・・でも、でも」


 「人として生まれたからには、どうしようもない」


 

 食用の村は1000人ずつの単位で構成されており、30個の村がある。


 だいたいは、10歳から25歳までに魔人の食料となっていた。


 魔人なりに気に入った味覚があるのだろうか、子孫を残すための血統を大事にしており、稀に50歳まで生かされる男性もいるが、女性は出産との兼ね合いからか、35歳までには食用になる。


 人を食用にするのは、以前は魔人が行っていたが、現在では奴隷の人が食用の人を殺し、加工し魔人の都へ提供していた。


 男性も女性も裸にされ、一列に並ばされる。長いときには100人の男女が列をなす。


 暴れるような人はいない。暴れるような人はここに並ぶ前に殺され、別のルートで食肉とされる。


 うつろな目をした、10歳から25歳の男女が、列の先頭になると首をうなだれる。


 そこで、奴隷の執行人が首を跳ね飛ばす。


 辺り一面は血の海だ。


 中には、怖くて泣き出す女の子もいる。


 それでも、執行人は容赦なく首を飛ばす。


 10歳の女の子の首は泣きながら、胴体から切り離される。


 それを見た、食用の人はわずかに顔をしかめるが、次は自分の番だと、また、前を向いて歩き始める。


 魔人に支配されてから数百年、これが人の世界の日常だった。

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