第335話 後後210 国境の町へ
はじめて乗る直行便。
東の空が明るくなってきたらもう出発した。
「今日はダリーまで行く予定です。」
と、同乗の紳士は言った。
いや、同乗しているのは我々だ。
彼がこの馬車を借り切っている。費用を少しでも賄おうと、空いてる席を売ったという。
俺と泉さん以外に、あと2人に売れたようだ。
紳士の荷物は屋根に乗っている。重くもなくデカくもなく屋根の大きさくらいの広いだけ。
「なんかベッドのマットレスみたいだな。」泉さん
同乗の2人も、あーなるほど、とか頷く。
「・・・まぁ、、そうですね。新しい素材で作られた新製品の販売前のものです。領主様から依頼を受けて買い付けにね。」
へぇ、、
皆興味なさそう。
そうなるわな、、という顔の紳士氏。
「でも農国の金持ちはそういうとこにカネ惜しまないよな」泉さん
「ええ、いいことですねー」俺
マットレスのみではなく、紳士氏が滞在する費用、馬車代金、なども消費する。
また、高級品は注文生産だ。無駄がない。金持ち達は待つ楽しみを知っている。
また、ものを見る目があるので、待った日数にふさわしい出来かどうかくらいわかる。販売側も、嘘は付けない。工房が忙しいので待つのに5日、制作に5日の10日後と、制作に10日とでは全く違う。制作側はそれを先に言う。「今出ました」の蕎麦屋みたいな嘘は通用しない。
そのような日用高級品制作の費用の大半は素材調達、工員給金などだ。一般の者達の収入に大きくつながる。
意味のあまりない美術品や宝石類とは違うのだ。
農国の金持ちは、ブートッチで出会ったゴンザレスやマキシムみたいな金持ちボンボンのように、食ったり痩せたりすることにも惜しみなく自己の労力とおかねを使う。自分でも動くのだ。
そこらは泉やガクが気に入っているところだ。特に元の世界とはほぼ全く違う。
紳士氏はブートッチに拠点を置く少し大きめの商会主だと言う。
自分で始めた商会なので、今でも前線で働くのが好きだとのこと。
ブートッチ、北の国、それから王都スタリッツアまでの間で商売しているらしい。
「ブートッチは妖精が多いですな」泉さん
紳士氏は怪訝な顔をする。
「ええ、そういう話の土地ですね」
(知らないのか?)泉
(ええ、あまり知られていないんですかね?)俺
(あれだけになっても知られていないのか?)
(ゴンザレスとマキシムの身内達だけじゃないすか?あそこに通ってるの)
(ああ、なるほどな!やつらだけでも街に出入りしてる者達は多そうだもんなぁ)
「あの、、えっと、、、居るんですか?、その、、妖精?」紳士氏
「・・・・・・・・・・あ、、いえ、えーと、、どうっすかね?いないんじゃないの、かな?」俺
「ぐーすか、ぐーすか、すぴーー」わざとらしい寝息をたてる泉
とりあえず話を収めてくれた。
話に気を取られて気づかなかったが、
「泉さん、馬車うるさくないし揺れない!」俺
「え?あ、ホントだな。へぇ、、道も良くなってるんだな」泉さん
「ええ、この高速馬車は素晴らしいでしょう?道もこれに併せて良くしたらしいですよ」紳士氏
「「どうもありがとう!」」泉&ガク
???
「これ、俺らの村の製品だ」泉さん
「ここらにまで出回ってるとは、嬉しいですね」俺
「ああ、感無量ってやつだな!熊にも教えてやろうな」
「喜びますよ、祝うんじゃないですかね?」
「俺らで祝ってやるか?」
「いいっすね!祝、農国進出!」
「いや、それは農国王の離宮と、うちの将軍様の離宮をこっちに作った時に果たしているだろ?」
「ああ、そうか、、んじゃ製品進出ってことで」
「まぁそのへんだな!」
紳士氏、ほかの者達も唖然とし、、
(あ、、)
(まずかったのか?)
(みたいっすね、、反応見る限り)
泉さんの人の心をよむなんかの不思議な力も年季が入ってパワーアップ。語りかけることもいつのまにかできている。
結構前からだけど。
便利だね!!
一家に一台泉さん!!
出発してから3度の休憩をし、日も落ちて少し遅くなってからダリーに着いた。
停車場ではなく、御者の宿にそのまま入る。馬車も宿の裏に入れていた。
俺らもその宿に泊まる。他の2人もそこにしていたようだ。わざわざ他に行く理由がないのだろう。
明日は朝食をここで食べてから出発だという。楽だ。
遅かったが風呂屋はやっているというので行く。
以前も来たかな?ダリーはあまり記憶に残らない街だったから、、、
風呂から上がって宿の食堂でいっぱい飲みながら夕飯を食べる。記憶に薄い街でも、やはり食事は農国だけあって美味いと感じた。
翌朝、朝食は粥だった。副食がゆで卵、漬物、小魚の甘露煮、今の時期に?菜の花?のおひたし、味噌汁。
うん、農国なのに完全に中華か和食!
なんでも気にせず取り入れるのがこの国の面白さ。
美味かったです。
馬車は出発し、しかし昨日ほどは飛ばさない。昨日ほどの距離は無いからだろう。
それでも他の馬車を追い越していく。
たまに人の乗った馬を追い越していく。追い越された方もびっくり顔だ。
改めて思う、すげー乗り心地良い。やっぱウチの大工の熊はすげーと思う。
(泉さん、やっぱ熊ってすごいっすよね?)
(・・・ああ、ウチの熊な、、)
ほう、、泉さんは先に獲物の熊を想像するんだな?
昼休憩をした後、多分3時頃だろう、国境の町の停車場に着いた。紳士氏以外の同乗客はここで降りる。
紳士氏はそのまま馬車で納入先に行くとのこと。
で、
紳士氏に掴まった。
案の定、、あのときそれ以上聞かれなかったから、後から来るなーとは思ってたんだ。
泉さんを見ると、しかたがないな、と向こうの世界で白人がよくやる両手の手のひらを肩くらいの位置で上に向けてのポーズをした。ヲタさんからだな?いや、もしかしたら博子かも、、
「私の定宿に部屋を取りますから、」と、また馬車に載せられて宿まで。紳士氏は俺らの部屋を取ってから「納品したらすぐ戻りますので」と、出ていった。
中級宿。俺らの泊まるような宿の倍から3倍の値段。それなりに広い部屋、従業員や外部からの侵入への安全性は高そう。部屋にバスタブもある。
が、少し離れてる市場の近くの銭湯に行くことにした。帳場に声をかけて出ていく。紳士氏がその間に帰ってきたら、のために。
風呂は大きくて3つの湯船、薬湯もありサウナもあった。
気持ちよく浸かれ、出て外の縁台で待つ。ほどなくおばさんたちと出てきた泉さん。おばさん達に礼を言い、宿に戻る。
途中、串焼きを買う。
鹿の燻製をあぶったものだった。
「これはうまいな、、酒のつまみにあうだろうなぁ、、」
「ええ、武国酒にもこっちの酒(洋酒)にも合いますねぇ」
宿は商会などが集まる場所に近い方にある。市場から少し離れている高級街の方に近い。
ガク達にとっては少し不便。昼間、ビジネスする者には便利な立地。
なので、酒屋なども周囲には無い。
「明日は市場のほうに移ろうな」泉さん
「ですねぇ」
宿に帰って下のティールームに行く。
「あ、ケーキあるぞ!」
注文し席に着く。
ケーキが茶とともに来た。
さく、、ざく?あれぇ?
「・・・・ぱさついてないか?」
「ええ、朝から置きっぱなし?ここで作ってるんじゃないですね、、買ってきて置いてるみたいですねぇ」
「ちゃんとケーキ屋にいかねばだめなんだな」
「ですねー」
でもちゃんと全部食べた。ケーキ自体は美味いので。
もっと保存がうまけりゃ、パサツキとかなくなるんじゃないかなぁ、、
などとやってたら紳士氏が帰ってきた。
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