勇者パーティーを追放されたバフンウニ、一皮剥けて復讐する

春海水亭

殻に隠されたものを誰も知らない


「俺達は、お前をここに、置いて行く」

勇者ポンギキッズがそう言ったのは、

彼らが魔王討伐の旅を開始してから、数ヶ月のことである。

スンシ街道スシロード

溢れんばかりの行商人が行き交い、賑わっていた交易路の面影はもはや存在しない。

今、そこにいるのは勇者パーティーの4人のみであった。


女神オトトイキヤガルドが創造した世界、名をオデン。

今、この世界に滅亡の危機が迫っていた。


ポンギキッズはかつて異世界より現れし勇者、ギロッポンの子孫である。

異世界言語である六本木の子孫ポンギキッズという意味を貰い、

母にそのように名付けられた。


かつての六本木勇者同盟ポンキッキーズが世界を死によって調律せんとした邪神シンヤタイイカを討伐したように、勇者ポンギキッズもまた世界を救う使命を帯びていた。

終焉の魔王、エンドマエ。

突如として現れたそれは、軍を持たず、ただ一匹の邪悪な生命として

陸、空、海、あらゆる場所に現れ、あらゆる生命を襲った。


軍を持たず、民を持たぬ、治める土地も持たない孤独の王。

穢土そのものたる魔王わるいやつ人間軍よいとこもわるいとこもあるやつらの戦争は常に魔王が制した。


血の一滴を流すこともなく、週休五日ゆるめのシフトで魔王は暴れ続けた。

人間の屍の上に降臨することもなく、

魔王は巨大な翼でふらりと現れては人間を殺し尽くす。


子供の落書きのように異常に肥大化した頭部と、頬まで裂けた口を持っている。

その肉体は城よりも巨大で、その皮膚は降り注ぐ星すらも痛痒と感じさせない。

塔のように太い四本の腕は、その一薙ぎで何百人もの重装兵を粉砕し、

息を吹きかければ、絶対零度の息吹となり、世界を凍てつかせた。


冗談のような存在で、冗談にならない死の積み重ねだけがあった。

勇者ポンギキッズはこの魔王を討伐し、

滅びゆく世界を救うために旅立った者である。


「……何を言っている」

勇者ポンギキッズの言葉に動揺したのは、言われた当の本人のみである。

女神オトトイキヤガルドの祝福を受けし巫女、テヤンディは目を瞑って静かに頷き、

ドス聖騎士団の団長であるヒカリモンは申し訳無さそうに首を振った。


聞いた言葉が信じられぬと、唖然とした感じを出しているのは、

地面に転がる、放射線状の棘を持つ球形の黒い殻に身を包んだ生物。

人間の掌に収まる大きさ手のひらサイズの勇者パーティーの最後の一人、バフンウニだけであった。


「ポンギキッズ……君に出会った時に言ったあの言葉は嘘ではない。

 私は魔王を倒すためなら死んでも良いのだ。

 もしも私が役立たずであるというのならば荷物持ちで構わない。

 君たちの肉盾になれと言うのならば、よろこんでそうなろう。

 私は確かに弱い……だが、ならば、せめて私の命を最後まで使って欲しいのだ」

心が鈴のように清らかな音を立てる物であったならば、

その真摯なる言葉に共振して、勇者の心は澄んだ鈴の音を奏でただろう。

彼らに犬の如き尻尾があったのならば、

その心底からの言葉に尻尾を振って応じただろう。


だが、彼らの心は鈴ではなく、身体は人のものであった。


「お前に人の肉があれば、そうしただろう。

 あるいはゴーレムの如くに腕があれば、そうしただろう。

 だが、お前はただのバフンウニだ」


勇者は誰に対しても目を合わせて、話しかける。

だが、この日だけは違った。

地面を転がるバフンウニに対し、彼は無慈悲に人の目線で応じた。


「俺達は、お前をここに、置いていく」

無慈悲に、勇者はもう一度告げた。

バフンウニだけではない、

自分に、仲間たちに、世界のすべてに言い聞かせるような強い口調であった。

「はは……考え直してくれよ、勇者よ。

 そうだ、腹でも減っているんじゃないか?

 腹が減っているからそのような邪悪なやばいことを考えるんだ。

 食事にしようじゃないか」

冗談めかしてバフンウニが言う。

だが冗談になることなど何一つとしてなかった。


「何故だ……勇者よ!」

「お前を持ち運ぶ時に棘が刺さって痛いチクチクバンバン

「一理ある」

バフンウニは痛いところを突かれた。

バフンウニは棘で突く側であるが、この時ばかりは突かれる側であった。

いや、皮というべきだろうか。


「ならば棘を抜こう……それでどうだろうか?」

バフンウニにとって自らを覆う棘はアイデンティティである。

だが、勇者パーティーのため、魔王討伐のためならば、

棘の全てを抜いても痛くはないのだ。

「というか勇者パーティーとして自律行動出来ないのは流石に……どうかと思います……」

巫女テヤンディが言った。

バフンウニに遠慮するような響きはあった。

だが、彼女は自分の言葉から逃げ出すことはなく最後までそれを言い切った。


「確かに私の移動速度は蛞蝓以下ターンはいつまでも回ってこない……

 だが、だが……」

宇宙を孤独に彷徨う流星のように、バフンウニは自分の中に言葉を探そうとした。

仲間たちを説得するための言葉、自分の価値、役割、そのようなものを。

だが、孤独な探求が終わるよりも早く、ヒカリモンは口を開いていた。


「更に言えば、君は仲間枠ではなくアイテム欄にいるんだ……」

ヒカリモンが指し示す先には、勇者ポンギキッズのアイテム欄があった。


ポンギキッズ

アイテム

・装備:無垢の剣

・装備:無垢の盾

・装備:無垢の兜

・装備:無垢の鎧

・バフンウニ

・キャベツ

・キャベツ

SSR率3%の武器ガチャガチャピンチャレンジ

驚愕の角笛テレフォンショッキング

・空き袋x99


「君と君の餌がアイテム枠を圧迫するせいで、

 魔王を呼び寄せる道具である驚愕の角笛を取るために、

 一旦、全回復アイテムを捨てないといけなかったんだ……」


「……」

自身の内面宇宙を彷徨ったバフンウニは、黒い闇に呑まれた。

仲間だった3人の誰一人に対しても、返すべき言葉を持たなかった。

そこにあるのは、

バフンウニは勇者パーティーには必要がないという当然の事実、それだけであった。


「お前の食事キャベツはここに置いていく」

「魔王は私達が倒します、バフンウニさんはどうか私達の勝利を祈っていて下さい」

「恨むなとは言わない、けれどどうか幸せに過ごして欲しい……」

別れの言葉に対し、バフンウニはそれでも――と言いたかった。

置いていかないでくれ、何も役に立たない、足手まといかもしれないけれど、

それでも、どうか旅の最後まで連れて行ってくれ――魔王を倒したい。と。


だが、バフンウニから出た言葉は「今まで済まなかった……」それだけだった。

最後の最後でバフンウニは大人ぶることを選んでしまった。


「そもそも何故、バフンウニをパーティーに加えようとしたんですか?」

テヤンディの疑問に答えるものは誰もいなかった。

呟きは風に乗って、誰の手にも届かないところまで運ばれて、消えた。



路上に捨てられたバフンウニは、

キャベツを食べては眠り、食べては眠りを繰り返した。

何もしようという気は起きない、

否――何かをしようとしてもバフンウニの歩みはあまりにも遅い。

勇者たちの一歩に追いつくために、

バフンウニはどれだけの歩みを必要とするだろう。

バフンウニは数学的知識を有さないが、天文学的数字であるに違いないと思った。


日が沈み、二つの月が昇り、雨雲が太陽を隠し、月の見えぬ夜が訪れ、

ただ世界の時間だけが過ぎていくのを、バフンウニは眺めていた。


食べ続けた一玉のキャベツが半玉になり、四分の一玉になり、玉無しになった頃。

テヤンディの疑問をどこまでも吹き飛ばしていった風が、

今度はバフンウニのために言葉を運んできた。

風に吹かれてバフンウニの前に落ちる新聞。

バフンウニはあまり言葉を知らないが、

それでもはっきりと意味を理解することが出来た。


『ポンギキッズ、テヤンディ、ヒカリモンの3人は魔王に挑み、死んだ』

バフンウニでも理解できるほどに、絶望は平易な言葉で書かれていた。


バフンウニを置き去りにした3人は、更に遠くへと行ってしまった。

もう二度と、バフンウニが彼らに追いつくことはないのだ。


「ああ……」

呻きが、バフンウニから漏れた。

塩水がバフンウニからだらだらと流れた。


「何故だ……私は何故、彼らを追おうとしなかったんだ……」

勇者たちの一歩に比べれば、バフンウニの一歩など遥かに小さい。

無いようなものである。しかし、無いわけではない。

進もうとさえすれば、彼らの下へと進めたのだ。


「何故、私は……」

絶望は、バフンウニを捕食せんとするカラスや狼よりも強い。

棘棘の黒い殻に身を包んでも、それで心が守れるわけではない。

何よりも鋭い棘は、己の心の内側に向いていた。


『何故、お前は魔王を退治しようと思ったんだ?』

バフンウニの言葉に重なるように、バフンウニは誰かの声を聞いた。

スンシ街道スシロードは今、バフンウニがいるのみである。

他にバフンウニに声をかける者などがいるはずがない。


だが、バフンウニはすぐに思い出した。

忘れるはずがない、勇者ポンギキッズの声である。

初めてポンギキッズと出会った時の記憶がフラッシュバックしたのだ。


数ヶ月前、ポンギキッズとバフンウニが出会った時、

ポンギキッズは勇者というにはあまりにも簡素な鎧を纏い、

振るうべき剣は、

鈍器といったほうが正しいのではないかと思われるほどに大振りな木刀だった。


そして、バフンウニと言えば。

アイテム欄に置かれるでもなく、キャベツを引きずり、

ゆっくりとゆっくりとどこにいるともわからぬ魔王を探して旅をする、

世界一のろい冒険者であった。


何人もの冒険者がバフンウニを追い越し、

誰も足元のバフンウニの存在など気に留めることはない

バフンウニと同じ場所で足を止めた唯一の人間が勇者ポンギキッズだった。


あの時、勇者ポンギキッズは何を考えていたのだろう。

何故、のそのそと歩くバフンウニのためなどに足を止めたのだろう。


『何故、お前は魔王を退治しようと思ったんだ?』

記憶の中の勇者ポンギキッズが尋ねる。

彼は地べたに座り込み、バフンウニに視線を合わせた。

『    』

記憶の中のバフンウニはただ空白だけを発した。

ポンギキッズはバフンウニに視線を合わせようとしたが、

それでもバフンウニにとっては高い位置にある。


『そうか』

記憶の中のポンギキッズは空白の中にある答えを知っている。


『では共に行こうか、魔王退治』

記憶の中のポンギキッズはバフンウニの答えをよっぽど気に召したのだろう。

だから、ちっぽけなバフンウニなどを仲間に入れたのだ。


バフンウニは、あの時なんと言ったのか。

覚えている、忘れるはずがない。


「このために自分が生まれたと思ったんだ」

バフンウニは、誰もいないスンシ街道スシロードで呟いた。

「そのためなら死んでも良い」

いや、誰もいないということはない。

かつて勇者が聞いた言葉は、今はただ一人バフンウニ、自分自身が聞いている。


戦いの運命があるとしたならば、

間違いなく勇者ポンギキッズはそれに選ばれた存在だろう。

それを前にして、

バフンウニははっきりと自分の生きる意味が魔王退治であると言ったのだ。

だからこそ、

ポンギキッズはそれを選んだバフンウニを旅に連れて行こうとしたのだろう。

自分の足で歩くバフンウニをこそ。


いつからだ、自分の足で歩くことをやめたのは。

アイテム欄に甘んじて置かれるようになったのは。

ただ言葉だけで命をかけると言って、価値のない命を捧げようとしだしたのは。


「ああ……」

バフンウニを勇者パーティーから追放したのは、

他でもないバフンウニ自身だった。


のそり、とバフンウニがあまりにも遅くあまりにも小さい一歩を踏み出した。

勇者の一歩に比べれば、無いも同然の一歩である。

しかし、それは確かにあった。

そして、魔王へと向かう道に続いていた。


勇者パーティーを追放されたバフンウニだけが、

勇者パーティーの最後の生き残りで、

誰かが魔王に復讐をするというのならば、それはバフンウニ以外にはいなかった。



魔王は城のように極大な胴体に、塔のように巨大な腕をつけ、

それよりも頭部はさらに大きい、子供が落書きで描いた人間であるかのように。

なにものも土台が太いからこそ、天高く伸びることが出来る。

しかし、魔王はまるでその真逆のようである。

天という頭部に土台があり、

そこから生えるかのように胴体がある、そのような有様である。


魔王は食物を口にしない。

頬まで裂けた三日月のような口は、ただ死の息を吐き出すためだけに存在する。

世界を凍てつかせる氷の息吹である。


その手は何かを握ることも、何かを作ることもない。

ただ敵を振り払うための強大なる質量に申し訳程度の指がついているだけだ。


その背にある二枚の羽根は、美しい景色を見に行くために用いられることはない。

魔王はどこへ行こうとも思っていない。

ただ、破壊できる場所に行くだけだ。


頑強なる皮膚はあらゆる攻撃を受け付けない。

移り変わる世界が伝える朝も昼も夜も春も夏も秋も冬も、

あるいは仲間のぬくもりを受け付けることもない。


全てを拒絶する故に、唯一人滅んだ後の世界に君臨するであろう存在。

軍も持たず、民も持たず、国土も持たない。孤独なる魔王。

それが|終焉の魔王、エンドマエである。


絶対なる王に立ち向かおうとする者の名はバフンウニ。

それは渾名いやがらせではない、真名ドキュンネームである。

ただのバフンウニが絶対なる魔王に復讐する――これはそういう物語ファンタジーである。


魔王は週に2回だけゆるい大学生のシフトぐらい現れて、破壊の限りを尽くす。

世界中を自在に飛び回ることの出来る魔王とは、

狙って遭遇することはほぼ不可能猿がシェイクスピア完成させると言っても良い。

特にバフンウニが歩いて魔王のもとに辿り着くことは不可能百円だけ握って知らん寿司屋に大トロ食いに行くだろう。


そこで登場するのが、驚愕の角笛テレフォンショッキングである。

吹き鳴らせば、魔王を呼ぶこの角笛によって勇者と魔王の決戦3対1のタイマンは行われた。

バフンウニはその戦いの詳細を知らない。

ただ、勇者たちが死んだ――そのことだけを知っている。

そして、知っていればいいことはそれだけだった。

勇者のように剣を振るうことも、巫女のように魔法を使うことも、

聖騎士のように目からビームを出すこともバフンウニには出来ない。


バフンウニには自分の戦いをすることしか出来ない。

だから、勇者たちが死んだという自分が戦う理由をさえ知っていれば、

それだけでバフンウニは十分なのだ。


「…………」

バフンウニはただ一匹で、勇者と魔王の決戦の地へと向かっている。

もはや、勇者も魔王もそこには存在しない。

だが、

驚愕の角笛テレフォンショッキングは未だにあれと願う。

バフンウニは新聞でちらりと勇者パーティーの死を知っただけだ。

記事になったということは、決戦の地に赴いた者がいるということであるし、

驚愕の角笛テレフォンショッキングが回収された可能性は十分にある。

だが、勇者という希望が失われて尚、

決戦のための道具を取りにいけるか、それもまた微妙なところである。


あるいは全ての破滅あしたこないでくれるかなのために、

破滅主義者が驚愕の角笛テレフォンショッキングを入手した可能性もあるが――

バフンウニは頭を振って、その可能性を否定した。

たとえ、そうであったとしてもそれはそうなってから考えることしか出来ない。

バフンウニはあくまでもバフンウニの身でしかない。


バフンウニの歩みはのろい。

勇者達の何倍も何十倍もかけて、ようやく彼らと同じ道を往くことが出来る。


バフンウニがゆっくりと進むまでに、魔王はどれだけの生命を殺しただろう。

あるいは、とっくに世界は滅んでいて、

バフンウニだけが生き延びているのかもしれない。

死体とすらバフンウニは出会うことがないために、バフンウニには何もわからぬ。


それでもバフンウニはやると決めていた。


果てのないような歩み死のロングウォークの先に、

バフンウニは自分の数百倍もあるようなクレーターを発見する。


「これが……そうか……」

勇者たちの決戦の地全滅ポイントの中心部、

勇者たちが選んだ、最も被害が出ないであろう最終決戦の地。過疎区

そこには確かに驚愕の角笛テレフォンショッキングが存在した。


目に見えた驚愕の角笛テレフォンショッキングを前にして、

それでもバフンウニが辿り着くまでに、昼が夜に変わるほどの時間を要した。


この角笛を吹けば、魔王が現れる。


そして、バフンウニは考える。

棘で刺して魔王は死ぬのか。


バフンウニを包む黒い殻は鋭い棘を有している。

だが、そこに毒性はなく、

鋭い棘といっても剣より鋭いというわけにもいかないだろう。

さらに言えば、バフンウニの機動性はほぼ0である。

魔王に当てに行く方法も存在しない。


「ハッ」

走りに走り、バフンウニは当たり前の事実に今更ながらにようやく気づいてしまったのだ。

バフンウニでは魔王を殺すことは出来ない。


イイトモー!イイトモー!イイトモー!


だが、考えるよりも先に角笛の音は世界に響き渡っていた。

まもなく、この地に魔王が来るだろう。

そして、それに立ち向かうのはバフンウニただ一匹である。


「バフンウニでは魔王を殺せない……そんなことは最初から知っている。

 だが、私は魔王を退治する……それが私の役割だ」


驚愕の角笛ちゃくしんが10回程鳴り響き、

夜の空に浮かぶ二つの月すら隠れてしまう巨体が現れた。


魔王エンドマエ。

だが、彼が対峙するべき存在――バフンウニはそこには存在しなかった。


あったものはただ一つ。

優しい昼の日差しの色をした、なにか美味しそうなもの。


魔王は食物を口にしたことはない。

誰かと触れ合ったこともない。

だから、誰かに食事を差し出されたことはない。


その太陽のように暖かな色をしたものは、魔王に食べろと言うようであった。

魔王は何も掴んだことのない腕で、ちょんとそれを摘み、口に運んだ。


黒い棘棘の殻の奥に隠された生ウニを食べた。



「剣も、魔法も、光線も使えない……そんなお前がどうやって魔王を退治するつもりなんだ」

在りし日の勇者ポンギキッズが、バフンウニに訪ねた。

地面をのそのそと歩くバフンウニは冗談のようなことを、至極真面目に言った。


「多分、魔王ってのは腹が減ってるから暴れるんだろ。

 美味いものでも食えば、魔王も暴れるのをやめるだろ」

「……その棘棘した身体のどこに美味いものを隠しているんだ?」


「さぁね」

「大体、どうやって魔王にそんなものを食わせるつもりなんだ。

 魔王は食事などしないはずだが」

「そりゃ誰も魔王に食事を勧めたことがないだろうからさ、

 案外、誰かが食事を勧めたら食べるかもしれないぞ」

「……ハハ」



「……勇者さん、なんでバフンウニをパーティーに入れてたんですか?」

最終決戦の少し前、角笛を構えた勇者ポンギキッズに、

巫女テヤンディは尋ねる。

「……面白いと思ったんだ、あんなんで魔王を退治するだなんて言うから」

「……じゃあ、最後まで連れていけば良かったじゃないですか……

 アイテムを一枠に入れられる空き袋が99個もあったんですから」

「……アイツ、魔王との最終決戦に来たら多分死んじゃうからさ。

 誰だってそうだろ、友達には死んでほしくない」

「……友達ですか?」

「ああ、友達だよ。笑えるだろ。バフンウニと勇者が友達。

 でもしょうがないだろ、バフンウニがあんな面白いやつだなんて……

 俺は一杯、いや腹一杯食わされたんだ」


【終わり】

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