月夜のおうだんほどう

 おぼろ月夜です。ぼくの家の屋根の上で、横断歩道が月を見ながら団子を食べていました。きっと何かよっぽどのことがあったに違いありません。軽トラックの陰で観察していると、何を思ったのか、横断歩道はすっくと立ち上がりました。そして、するすると伸びて、月にとどいたのです。ぼくはおどろいて屋根に上りました。それから、そっと横断歩道にさわってみました。石膏みたいにコチコチに固まっています。ぼくは前からいちど月に行ってみたいと思っていました。


 白いはしごに足をかけてみると、登れそうです。でも、二段目か三段目まで登ったとき。急に横断歩道がぶるぶるっと体を震わせて、ぼくをふり落としました。宙に浮いた横断歩道の足がびょーんと、町の空をすべっていきます。ああ、やっぱり地球は自転しているんだなあ。月に向かって縮んでいく横断歩道を見ながら、ぼくはそこに置いてあった団子を食べました。ちょっとカルシウムの味がしました。


 そんなわけで、ぼくの家の前の道路には横断歩道がなくて、あれからずうっと信号機が目をぱちぱちさせています。いつかぼくはあいつらを月につれて行ってやるのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る