072 防犯カメラ
「ただいま」
声に出したが室内からの返事は勿論ない。四十二歳独身の生活なんてそんなもんだ。ただ、アパートの玄関をあけると同時に、何か胸騒ぎを覚えた。
玄関の鍵はかかっていたし、土間に脱ぎ捨ててある靴もいつも通りだ。ユニットバス、キッチンと順番に確認していくが特に変化はないように思える。
リビングに入った俺はカーテンを少し開きテラス戸を確認してみたが開いた形跡はもちろんない。そのまま横にあるベッドに腰を下ろしリビングを見渡した。朝と違うと言えば……リモコンの位置と本棚の本の位置が変わっているような気もするが特に気にはしなかった。
それでも一抹の不安が残る俺は防犯カメラの映像を確認する事にした。設置しているカメラは二台。リビング全体を映し出すカメラと玄関に向けたカメラで、それぞれSDカードを抜き取った。パソコンは常に持ち歩いている一台しかないので早速バッグから取り出しテーブルに置きSDカードを差し込んだ。
仕事で家を空けた十時間分をフルに見るわけにはいかないので三十二倍速で映像を確認していく。玄関側の映像で動くものは映り込んでいなかった。SDカードを差し替え、リビングの方も確認してみたがいつもの室内が延々と流れているだけだった。
「よし、今日も問題はなかったな」
俺はSDカードを抜き、元通り防犯カメラにセットした。心配性の俺は仕事から帰ると同じ作業を毎日繰り返している。家にはWi-Fiルーターはもちろん通信機器は一切置いていないし、テラス戸の鍵もキーロックに変えてある。それでも心配なのだ。いつ不測の事態が起こるかなど誰にも分からない。俺はリビングの端を見つめ、微笑みながら口を開いた。
「ちゃんと大人しくしていたんだね」
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