046 THE END

 俺にはすごい能力がある。


 相手の顔を見ながら『死ね』と呟くとその人間を殺すことが出来るのだ。


 今考えてみると最初に能力に目覚めたのは高校生の頃だったと思う。毎日遊びまわって帰りが遅い俺に親父が手を上げてきた時だ。玄関で平手打ちされた俺は親父を睨みつけながら咄嗟に『死ねよ』と言い放ってしまった。親父はその夜のうちに心臓発作で亡くなってしまった。


 でもその時はまだ自分の能力に気付いていなかった。だが、素行の悪い俺はいろんな相手に『死ね』と言いまくっていた。ゲーセンで絡んできた不良や学校でネチネチ言いやがる担任、あらぬ噂話を近所にばら撒く隣家のババア――みんな死んでいき、いつの間にか自分の能力を自覚することが出来たのだ。


 俺はこの能力を大いに活用した。俺が好きだった女の彼氏や会社で邪魔な上司なんかも殺した。とにかく俺の邪魔をするやつは殺しまくった。俺は自分の人生を心底楽しんだね。



 そして今日、俺は彼女に『死ね』と言ってしまった。原因は向こうからの別れ話だ。他に好きな奴が出来たらしい。俺はキレてしまい、両手で襟首を掴み上げた彼女を壁に押し付け眼前でその言葉を浴びせてしまった。彼女のくりくりとした大きな瞳が潤んでいくのが分かった。


 彼女が部屋を出た後俺は後悔した。俺は彼女が大好きだった。彼女ではなく俺から彼女を奪った男を殺せばよかったのだ。しかし今頃後悔しても遅い。あれから時間も経ち、夜になった。間もなく彼女は死んでしまうだろう。俺は彼女との楽しかった記憶を思い出しながらゆっくりと目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る