ヤクザの息子の俺、学校1の美少女を救ったら俺の人生が救われた

メープルシロップ

第1話 俺の存在

「母さん、行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」


俺は家の門を力を込めて開ける。

俺は真堂龍司しんどうりゅうじ。高校一年生だ。

ごく普通の高校生……では全くない。

俺の父親はヤクザの会長だ。

この街で俺の家族のことを知らない人はいないだろう。

家柄のおかげで俺は幼い頃から周りの人から避けられていた。

幼稚園の頃は、周りの子にヤクザなんて言っても分からなかっただろうけど、どうせ親が何か言ったんだろう……

小学生の高学年になると、

「あいつに逆らったら殺される」だの「あいつの家に帰ったら一生帰れなくなる」だのと言われてきた。


最初はなんでみんな遠くに行って、俺を避けるのかが分からなくて辛かったが、家のことを知ってからは、仕方がないと自分に言い聞かせた。

中学校になると、1人でいることには何も感じなくなっていた。


父親は小さい頃に、

「お前は跡を継げない」

そう言われてから全く関わらないようになった。


母さんは、望んだ結婚ではなかったらしい。

でも、好きでもない人との間に生まれた俺のことを母さんはとても愛してくれた。

育児に関しては母さんが全てしてくれた。

おかげで、こうして高校に通うこともできている。


学校を友達と楽しんで、彼女ができて、青春をする。

そんなことは、はなから諦めていた。

俺に「普通」という言葉は無縁だ……


学校に着き、下駄箱で靴を履き替える。

その時、後ろから肩をポンと叩かれた。

俺はゆっくりと顔を後ろに向ける。


「龍司君おはよ〜今日も暑いね〜」

「お、おはよう……ほんと暑いな」

「熱中症ならないようにね〜それじゃ、私は昨日の課題出してくる〜」

「あ、おう……」


中学校の頃から唯一俺に話しかけてくれる人、浜崎美羽湖はまざきみわこ

学年一の美少女と言われている。

誰にでも優しく振る舞える。

頭はあまり良くなく、少し抜けていて、誰でも接しやすい。それが人気の秘密だろう。

実際に、浜崎の容姿はモデルかと思うほど整っている。

俺は、そんな浜崎に恋をした。

周りの人が誰も話しかけない中、話しかけてくれた。

しかもそれがあんなにも美少女なら恋に落ちるのも仕方がないような気もする。


だが、俺はみんなのように普通に恋なんてできやしない。

告白したところで相手にしてもらえないだろうし。

やっぱり俺に普通なんてのは無理だった。


そんなことを思いながら、教室の扉を開ける。

みんな俺が教室に入った途端、姿勢を正す。

俺は先生じゃないっつーの……

こんなことはいつものことなので、そんなに気になることでもないんだが……


休憩時間、移動教室の時は1人。

みんなは楽しそうに話しながら学校を過ごしている。

俺もみんなと同じようにいたいと思っている。

……いや、思っていた。

俺はみんなとは違う。

ずっとそう自分に言い聞かせている。

苦しくなんてない……


帰りのホームルームが終わり、みんなはカバンを持って家に向かう。

いや、家ではないのかもしれない。

ゲーセンとか、いろんなとこにいくんだろう。

なんて言ったって今日は部活がない日だ。

暇だと思った俺はなんとなく校舎を回っていた。

なんとなく校舎を回るのは気付けば趣味のようなものになっていた。

別に何か得るものがあるわけではない。

でも、俺はなんだかそれが好きになっていた。


いつも折り返している体育館まで着いた。

でも、今日はもう少し行ってみようかな……

そう思い、旧校舎の方へと足を進める。

体育館を通り過ぎるところで、何やら声が聞こえた。


「ごめんなさい。あなたとはお付き合いできません」

「おいおい、何言ってんだよ?俺だぞ?校内一のイケメンと言われているこの俺が付き合ってやるって言ってんだぞ?!なのにごめんなさいだと?!」


声の主は、浜崎と2年の青木ってやつだろう……

イケメンってなんか女子が騒いでたが、言ってることはクソだな……

俺は浜崎のいる方に向かった。


「なあ、いい加減にしろよ!一年のくせによ!」

「あなたみたいな人は大嫌いです!!」

「なんだと!!」


青木が手を振り上げようとした時、俺は角からひょいと体を出す。


「おめぇ、クズだな」

「ああ?お、お前はし、真堂?!」

「龍司君?!」


青木の近くには2人友達っぽい奴らがいた。

まあ、あいつと一緒にいるならロクなやつじゃなさそうだな……


「な、なんでお前がここに?」

「散歩してたらバカみたいなこと言ってる奴がいたから、ちょっと見にきたんだよ」

「て、テメェ!」


こっちを睨みつけてくる青木の方に俺は一歩ずつ近づく。


「浜崎、帰れば?」

「え?あ、うん……」

「待てよ、何してくれてんだよお前……怖いのは、お、お前の父さんで……お前自身はなんも怖くねーんだよ!!」


そう言って青木は拳を俺に向けて突き出した。

だが、幼い頃に父親から格闘技や武道については一通りやらされたので、こいつの拳を避けることなんて簡単だった。


俺は体を90度反転させ、拳を避ける。

力を入れすぎていたのか、勢い余ってそのまま体が前に出る。

俺は拳に力を込め、青木のみぞおちにめり込ませる。


「かはっ!」


青木はその場に蹲った。

後ろの奴らはケツを地面にぺたりと付けていた。


「帰るぞ」

「……あっ……うん……」


俺は無意識のうちに浜崎の手を引いていた。

校門に着き、俺は自分が握っている手のことに気づいた。


「ご、ごめん……」

「いいよいいよ……その……ありがとね」


少し恥ずかしそうに微笑みながらそう言った浜崎は、後ろの夕日に照らされて、まるで映画のワンシーンを見ているようだった。


「お、おう……」

「龍司君今から少し時間あるかな?」

「え?……まあ、大丈夫だけど」

「じゃあちょっと近くの公園でお話ししない?」

「ああ……」


話し?俺となんの話をするんだ?

疑問を浮かべながら俺は先に歩く浜崎について行った。


数分歩き、公園が見えてきた。

その間浜崎は気不味い雰囲気にならないようにといろいろな話題を振ってくれた。


「なんで、俺にそんなに話せるんだ?」


知らないうちに俺は思った疑問を口に出していた。


「え?ど、どうしたの急に?」

「あっ、いや、別に嫌とかじゃないんだけど……みんな俺に関わろうとしないだろ。なのに、なんで浜崎は普通に話してくれるのかなって……」

「な、なんでって……」


なぜだか浜崎は顔を赤く染め、俯いた。


「あっ、別に無理に言わなくていいからな」

「じゃ、じゃあ言わない……」

「お、おう……」


そこからは少し無言の時間が続き、俺たちは公園に入っていった。


「座って」

「おう……」


浜崎に促され、俺は横にあるベンチに座る。

2人きりでこんなに近い距離になるのは初めてで、なんだか心臓が激しく動いていくのが分かった。


「話って?」

「そのさ……結構真剣な話しだからさ……怒ったり嘘ついたりしないでね?」

「え?……分かった」


一体なんの話をするんだ?

俺の頭は疑問でいっぱいだった。


「龍司君はさ、実は普通にみんなと遊んだりしたいんだよね?……みんなと同じように普通の高校生活を送りたいんだよね?」

「……」


自分の痛いところを突かれたようで、言葉がすぐに出てこなかった。


「なんでそう思ったんだ?」


質問に質問で返すのはおかしな事だが、どうしてそう思ったのかをちゃんと聞いておきたかった。


「みんなが遊んでる時、なんだか羨ましそうに、悲しそうにそれを見てたし……」


無意識にそんな事してたのかよ……

小さい頃に諦めたはずだったのに、この気持ちは捨て切れていなかった……

なんとも惨めで、ダセー男だ……


「その思いは昔捨てたはずだったんだけどな……確かに俺はみんなと同じ学校生活をしたいと思ってるのかもしれない……だけどさ、無理なんだよ……別に小さい頃からこんな感じだし、もう慣れてるから……このままで、いいんだよ……」

「……」


浜崎は、なんとも言わず、俺の方をじっと見ている。


「こうなったのも父さんのせい……いや、父さんのもとに生まれた俺のせいか……ははは……」


そう言って俺は無理やり笑顔を作った。

その時、急に浜崎は俺を抱きしめた。


「な、何してんだ?!」

「無理しなくていいから……変に強がらないでいいから……泣きたい時は泣いていいんだよ……」

「強がってなんか……」


そう言った時、俺の目からは涙が一粒、二粒と溢れ出す。

次々と溢れる涙を、俺は止めることができなかった。


「……龍司君は何も悪くない……みんな、龍司君のこと何にも知らないのにね……ほんとひどいなぁ……」


浜崎は今にも泣きそうな声を出しながら、俺の頭を優しく撫でた。

浜崎の体温が伝わってくる。

温かい。温かかった……

俺は、母さん以外の人の温もりを感じたことがなかった。

でも今、こうして人の温もりを感じている。

それがとても嬉しかった。

今流れている涙の原因は何かははっきり分からない。

でも、今は泣きたかった。

やっと、そう思えた。

やっと自分の気持ちに正直になれた。


そこから俺は数分泣いていた。

涙を出し尽くし、乱れていた呼吸が落ち着いていく。

浜崎はそんな俺を横目で見て、体をそっと離す。

俺と目が合い、浜崎はニッコリ笑顔を咲かせた。

そんな浜崎につられ、俺も思わず笑顔が溢れる。


「恥ずかしいところ見せちまったな……」

「そんなことないよ」

「ありがと……浜崎のおかげでなんだかすっきりしたよ」

「それはよかった」

「俺も……いろいろ努力してみよっかな……」

「そのことなら私に任せて!」


浜崎は自信満々に胸を張ってそう言った。


「え?……ああ……」

「まあ、明日楽しみにしといて!じゃあ、私帰るね!」

「家まで送るよ」

「本当に!ありがとっ!」


あたりは薄暗くなっていたので、1人で帰らせるわけにはいけない。

しかしすごい嬉しそうだったな……

なぜだろうという疑問を抱えつつも、俺は浜崎を家まで送った。




〜あとがき〜

読んでいただきありがとうございます!

今回は初めて短編を書いてみました。

次回で完結になります!

お楽しみに!


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