負けヒロインとモブのハッピーエンド※旧タイトル  前世読んでいた恋愛系マンガのモブに転生したけど、それに気づいた時には物語は終わっていたので負けヒロインを幸せにしようと思う。改訂版

3pu (旧名 睡眠が足りない人)

失恋モブと負けヒロイン

第1話 前世の記憶を思い出したのは、物語が終わった後だった


 中国地方にしては珍しく多くの雪が降り、例年よりも都市部で多くのカップルを見かけるホワイトクリスマスの日。

 俺は白い息を吐きながら、バイト先のカフェの前で白く長い付け髭、全身赤と白を基調としテンプレートなサンタのコスプレで、プラカードを持って客引きをしていた。


 「クリスマス限定メニューのケーキを店内にて販売中でーすー!しかも今ならそちらを頼むと飲み物が一つ無料になりまーす。さらに、カップルでの御来店の方々には特別にサンタからのプレゼントを配っていまーすー!カップルの皆様ぜひ一度足を運んでみてくださーいー」


 何度口に出したか分からない、客引きの言葉。

 正直、効果があるのかどうかなんて分からないが、常連のお客さんは俺のこの格好を見て大笑いして声を掛けてくれるので、普段に比べれば店内はかなり盛り上がっている。

 俺は手が悴んでプラカードを持っている感覚が無くなりそうなので、プラカードを壁に立てかけ両手で口を塞ぎはぁ、と息を吐いて温める。

 そうすることで、少しだけ手の感覚が戻ってきたような気がした。


 しばらく、自分の手を暖めていると俺の隣に見知った女の子がやってきた。 

 彼女は学校で有名な美少女の一人だ。

 茶髪の緩いウェーブのかかったロングヘアー。今、降っている雪と比較しても全く差を感じない白い肌。ぱっちりとした二重で愛嬌を感じさせる大きな茶色の瞳、こんな寒い状態なのにも関わらずぷるんとした綺麗な桜色の唇。

 白いベレー帽に、赤いマフラー、白のニットワンピースの上にピンクのダッフルコートに、黒のストッキングとお洒落なコーデをしている彼女の姿は、普段制服姿しか見ていない俺からすると、かなり新鮮だった。

 こんな場所に一人でいるなんてどうしたのだろう?彼女はいつも、と一緒にいたのに今日は一緒じゃないなんて珍しいと思い、俺は彼女の様子を伺う。

 彼女はカフェにいるカップルを羨ましそうな目でしばらく見ていると、なんの前触れもなく彼女の頰に一粒の涙がつたい道路に積もった雪の上に落とした。

 そして、その涙を皮切りに彼女の瞳からは涙がとどめなく溢れ出し、手で顔を覆いその場にしゃがみ込んだ。

「ひっぐ…何で………私じゃなかったの?…えっぐ…何で……

 涙を流しながら彼女が溢した名前を聞いた時、俺の身体に異変が起こった。


 (ゆーくん?何だ。初めて聞いた名前なのに何故か何度も聞いたり見た気がする。それに初めてみるはずの彼女の私服姿に既視感を覚えている。何より彼女があいつに振られたから泣いているって分かるんだ?っつ!?ガッ、頭が痛ぇ。何だよこれ?頭に色んなものが流れてきておかしくなりそうだ!)


 突然流れ込んできた自分ではない誰かの記憶。

 それが一気に自分の頭に濁流のように流れ込み、頭が割れるように痛い。グルグルと視界が揺れ世界が歪んでいく。

 俺は、はぁはぁと息を荒げながら目を瞑り頭を片手抑え痛みを堪え、身体を壁に預ける。

 やがて頭痛は治り、俺が再び目を開いた瞬間世界の景色が、街を通る人が不自然に見えるようになった。

 、と。

 そう思った瞬間、俺は隣でしゃがみ込んでいる彼女の顔を見た。

 そして気づいた。さっき自分が持った既視感の原因が何なのかを。


 (この姿を前世の俺は何度も見ていた。この結末が気に入らなくて。そうすればいつか彼女が報われるんじゃないかという淡い希望を抱いて何度も読み返したんだ)


 この世界が、彼女 水瀬みなせ 小鳥ことりがヒロインとして登場する恋愛系マンガ『幼馴染み二人と僕の恋は』であるということを。


 水瀬が報われない負けヒロインであることを、俺はこの時思い出した。





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あとがき


どうも、前作を読んでいる人は一週間ぶりくらいですかね。

こちらは前作が僕の目指したエンディングに至ることが出きないと気づき目指す場所を見失ったため、書き直したものになります。

これが本来僕の目指した物語です。どうか良ければお付き合いください。















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