第183話 決断と波乱

「会長の気持ちは嬉しいのですが、今回の件はお断りさせて頂きます」


 アン達の意見をもらった日の放課後に私は会長の元へと誘いに対しての返事を伝えた。

 返答に答えはない。どう言うべきかを推し量っている様に見える。

 会長の後ろ窓から差し込む陽の光がこの部屋明と暗を分けている。会長側は明るくて表情がよく見える。


「そう言われるとは思ってなかったなぁ」


 声色は前に話した時と変わらない。だけど、その一言は重く私に響いた。


「理由を聞いてみても良いかな?」

「私がそう思ったからです。のびのびと学園生活を送りたいと思ったからです」

「つまり、自分に着くとのびのびとした学園生活が行えないと? それは間違いだよ。あまり強く言えないけど俺ものびのびしてると思うよ」


 総長としては何としてもフランソワが欲しいと言う気持ちが見え隠れしている。


「別に君に雑用を押し付けるわけでもない。一年生をまとめてくれと言うつもりもないよ」


 ひとしきりいい終わったのか、今度は口を開かずにこっちを見てくる。

 返事を急かされているような気持ちになる。


「そうは思っていませんよ。ただ、派閥云々には私は属するつもりがありません。総長がと言う問題はありません。誰にでも同じ気持ちです」

「寂しい事を言ってくれるねぇ」


 はっきりと意思を伝えても総長の気持ちは揺らいでいない。


「でも君の言うのびのびとした生活をするには何処かしらに属した方がいいんじゃないかな。俺のとこじゃなくてもいいけどさ。君は目立つからどうしても注目されるだろ。無所属でも目立つと色々あるからね。まぁ目立つ目立たないは君の意思じゃない。君の存在感だからね」

「確かに。だけどそこは既に考えていますのでご心配頂かなくても大丈夫ですよ」


 「そうか」と一言呟いて眉間を指で抑えた。


「それでどうするのか参考に教えてよ」


 声色はまた変わっていない。だけど、明らかにさっきまでとは接し方が変わった。

 高圧的にも取れる話し方はこの話場においては凶器のように感じる。

 顔の前に掌が置かれていて何かの拍子にそのまま顔を押しつぶされるんじゃないかと言う感覚。


「それは秘密です」

「ちょっとくらいいいじゃないか」

「ダメです。ただ一言言うなら……」

「言うなら?」

「今の所私が総長の対抗馬につくことはありませんのでご心配なさらず」

「今の所……怖いこと言うね。それと一つ誤解がある。対抗馬に君が着く事を恐れて勧誘しているわけではないよ。ただ、この先の学院を導く候補になって欲しかったのさ」

「そんな大役は私にはできませんよ。それこそのびのびと学園生活が楽しめなさそうですから」


 お互い笑って言葉のキャッチボールを繰り返す。


「そんなに今は背負わなくてもいいさ。疲れるだけだろ。だけど、いつか考えは変わるかも知れない。君は変われば生徒達の憧れになれるはずだ。だから俺は君を買っている。本音だよ」

「それは買い被りすぎですよ。私以外で探された方がよろしいかと」

「いるよ。ただ、君の方が優秀だと俺は思ってる」

「それならその人をもっと……」

「保険だよ。それに優秀な人材は何人いてもいいだろう。さて、もう一度聞くよ、君はどうす……」

「私はお断りさせて頂きます。これ以上はお互い時間の無駄になるかと」


 私の言葉を遮った総長への意趣返し。今度は私が総長の言葉を最後まで待たずに言葉を口にした。


「それでは失礼致します」


 もうこれ以上の言葉を交わす必要はない。

 多分総長は諦めない。だから私はその場を強引に切り上げて教室から有無を言わさずに立ち去った。

 この後しないといけない事はちゃんと頭に入ってる。総長が私の勧誘を諦めてくれるようにする為の行動。

 アン達とも話し合って答えを出した。

 決行日は5日後の交流会……。

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