第176話 先輩の本音

「なんで私をそこまで気に掛けてくれるんですか?」


 探りを入れた。その上で判断する。


「なんでって……それは……」


 さっきまでの威勢がなくなった。理由を言えない事情があるらしい。


「何故なんでしょうか?」


 質問を繰り返す。相手に迫る様に。

 

「貴方は後輩だもの。先輩として当然よ」

「そうでしたか。そしたら先日の事も同じ理由で?」

「えぇ、そうよ。もう分かったでしょう」

「理由……違いますよね」


 間髪入れずに返すと相手は半歩後ろに身を引いた。


「無いわよ!」

「ありますよね。そうじゃ無いと矛盾してますもの」

「む、矛盾……?」

「守ってくれると言う割には最初の言いがかりが突拍子過ぎたもの。私達の行動を悪く言って一方的に責め立てて来ましたよね。守ってくれる人はあんな事言いませんよ」

「そ、そんな事はないわよ。学院の生徒らしくしなさいって意味で言ったのよ!」

「そうですか」


 そんな事は口からの出まかせでしか無いのが丸わかりだ。


「ところで、私を派閥に誘う様に誰かに言われてたりしますか?」

「自惚れも良いところだわ! 誰が貴方なんか誘うのよ」


 捲し立てる様な私の言葉に合わせて段々とヒートアップして来ている。あんまりこんなやり方は好きではないけど、先に仕掛けて来たのは向こうの方だと割り切った。


「そうでしたか。ちなみに私は先日総長から派閥に入らないかって誘われましたよ」

「な、何よ。それがどうしたのよ。自慢?」

「いえ、私にも誘ってくれる方が居るんだというささやかな言葉での抵抗ですよ」

「馬鹿にしてるでしょ貴方!」


 最初は周りに聞こえないほどの声だったものが段々と声が大きくなって来た。そのせいで時折過ぎていく生徒達がこっちを少し見るようになって来た。


「静かに、騒ぎになってしまいますよ」


 先輩は周りを見渡して状況を理解したらしく、息を整えた。


「それでどうするの?」


 事の始まりを思い出したかの様に私にまた聞いてくる。

 大体分かった。この人は単純に私の上に立ちたいんだ。だから私を派閥に入れようとしている。

 最初は総長の意思かと思ったけどそうではないらしい。

 ただ、まだ一点気になる言葉がある。


「派閥に入る気はありません」

「なっ……そしたら総長に泣きつくのかしら? 恥ずかしいわね」

「いえ、泣きつきはしませんよ。ただ、総長の派閥に入るだけです。誘ってくれたのは総長ですので。私はその誘いを受けるだけです。そしたら派閥のルールで私に手が出せないでしょうから」


 決着だ。この問題はこれを言ってしまえば先輩の考えは終わってしまう。

 先輩としては私を派閥に入れて総長への評価アップに繋げたかったのだと私は推理した。

 先輩の派閥とやらが総長よりかは知らないけど、先日の一件で総長の名前を出したのであれば、その可能性が高い。流石に関係ない人の名前を出す事はないだろう。

 まぁ私が総長についてしまえば、総長側でない派閥はもっと手が出しづらくなるのは当然で、同じ派閥でもそうだろう。それはこの数日教わった事ではっきりしている。

 「寄らば大樹の陰」、「長い物には巻かれろ」とはよく言ったものだと身に染みる。


「ずるいのよ! 貴方ばっかり!」


 本音が出た。先輩の行動原理はこれだろう。

 いやまぁ、最初からそんな気はしていたけど。

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