第174話 ちょっかい
昨日のお昼の事は私の思考力を大半奪っていた。
結局昨日の思惑はなんだったのか。気になって仕方ない。
ホリナにも帰ってからその様子を心配された。「今日の食事は口に合いませんでしたか?」と言われて何故かと聞くと「いつもなら美味しそうに頬張るのに、今日は覇気がない」と言われた。私はどうやらご飯を食べている時は生き生きとして、覇気に満ちているらしい。
ホリナのご飯が美味しから当然なのだけど、それすら打ち消すほどに私の頭の中でぐるぐると昨日の事だけじゃなくて、ここ最近の事が走り回っていた。
総長への返答もしないといけないし、なんだか気が重たいし、心なしか足取りも重く感じる。
校門を超えて校舎までの道のりは慣れては来たけど、今の私にはいつも以上に長く感じる。
そんな私の背中に衝撃が走る。
背中方向から前に突き抜ける力は私を前へと倒そうとしたが、反射的に足が動いて身体を支え、その場に留まらせた。
「あら、ごめんなさい」
謝る気がない事が伝わってくる形だけの謝罪が聞こえた。
後ろを振り向くと前に見た人物が立っていた。
「私邪魔でしたか? それはそれは失礼しました。どうぞお先に先輩方」
前にお昼に嫌味を言いに来ていた先輩連中だった。
さっきの言葉に対して私も心のこもってない言葉と道を空ける動作で返した。
「そんなつもりじゃなかったのよ。偶然よ偶然」
「そうでしたか。それではお先にどうぞ」
私としては構わずにさっさと行って欲しいから無視してさっきの言葉を繰り返した。
「そんな邪険にしないで欲しいわ。もしかして怒らせちゃった?」
見え見えな安っぽい挑発をかましてくる先輩の顔は楽しそうだ。
「いえいえ、そんな事はありませんよ」
怒りよりも感心する。よくこの前の出来事があってノコノコと顔を出せて、尚且つちょっかいを出せるなんて。
私の思惑に気づかなかったのか、それとも面の皮が辞書の様に厚いのかどちらかだ。
「その割には怒ってるようには見えるわね」
「そんな事ありませんよ。それでは私はお先に失礼します」
構って上げないと気が済まないらしい。だけど私はそのままその場を流れで立ち去ろうとする。
「急がなくてもいいじゃない。せっかくの縁なんだから一緒に行きましょうよ」
「せっかくのお誘いですが、畏れ多いのでご遠慮させて頂きますわ」
「まぁ、酷いこと言ってくれるわねフランソワさん」
白々しい。名前までどこかで聞いたと言う事はどうやら本格的に私を狙い撃ちしに来ているらしい。面倒くさくて仕方ない。
「名前を覚えて頂けるなんて光栄です」
「貴方のことはよく知ってるわ。人の話の途中で割り込んできたりしたりするらしいわね。マナーがなってないから私が今度から指導してあげましょうか?」
流石に私の我慢も限界を迎えていた。思わず溜息が出てしまう。
「いえいえ、間に合ってますので。それに、マナーがなっていないのは先輩の方では?」
「何を言い出すのかしら」
「はっきり言わせて頂きます。前の騒ぎの時に助け舟を出したはずですがお忘れですか? それとも覚えていての今日の態度ですか?」
「貴方がいらない事を勝手にしたんでしょう」
「そうですか。それならそれでいいです。そしたら私としても総長様へ報告しなければなりませんね。それでは失礼します」
これで引くはずだ。流石にこれ以上は返してこないだろう。
相手が引き止めても、もう私は足を止めない。そのまま校舎へ向かって歩き出す。
「何を総長に言うの?」
予想外の言葉にびっくりして、私の足は歩み出す事はなかった。
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