第172話 二人の関係

 二人の関係がどんな風に見えるか。率直に言ってしまえば幼馴染のように見えた。だからこそ、息があっている。

 でも多分そうじゃない。私にその質問をしてくると言う事は私の率直な考えは間違っているんだ。だからこちらを面白そうに見ながら質問して来た。


「そうですね。幼馴染で実は恋人……もしくは許嫁でしょうか。深い中だと見えます」


 ただ、私は分かっていてもそう答えた。思惑は分からないけど、この場は恐らく腹の探り合いとして設けられた、それならここは相手のペースに乗っておく事にした。そうすれば相手の油断を引き出せるかもしれないそう考えた。

 私の答えにエルンさんは口元を押さえ、溢れてしまう笑い声を隠すかのように笑った。それでも少し声は漏れて来て、口の中で蒸気機関が動いている様に思えた。


「それはないわね」

「そうだね、フランソワさんはもう少し人を見る目を養った方がいい。僕がエルンの幼馴染で許嫁? ありえない。天地がひっくり返ろうともだ」


 えらい言われ様だ。口調と言葉は笑っているようにも聞こえるが、心の中ではそうでは無さそうな空気を二人は発している。


「そうね。それは貴方と同意見よジェフ」

「えーと……すみません、的外れだったようで」

「いいのよ、こちらこそごめんなさい。あまり気にしないで」

「そしたら正解は何だったんですか?」

「関係性で言ったら敵同士なのよ私達」

「敵?」

「お互いに別の派閥同士なの。私のエルン派閥と彼のジェフ派閥。それぞれ学院内での意見も違えば視点も違う。これは言わば敵同士……でしょ」

「つまり、対立派閥という事ですね」

「その通りだフランソワさん。僕達は今年生徒総長に立候補するつもりだ」


 全くそうは見えなかった。でも、彼女の質問から恐らく仲は悪いと言うのは察していた。ただ、予想外だったのは二人共が生徒総長に立候補する程の位置の人物だったという事だ。


「でも、私達は貴方を派閥に勧誘するつもりでもないの。だからさっきの質問に対してはさっきジェフが言ったように『違う』で間違い無いわ」

「そしたら今日はなんで私を?」

「貴方に興味があったのよ。今の総長が貴方と会う程だったからどんな人かと思って」

「それは総長の買い被りだと私は思いますけど」

「買い被りでもそれだけ貴方には価値があると踏んだのだと思うわ」

「価値?」

「そう、次の総長選挙で自分の後継候補者を総長にするための価値」


 昨日の総長の口ぶりからなんとなくそんな気はしていた。そうでないとわざわざ誘い入れてこないだろう。

 でも、それを別に悪くいうつもりはない。お互いにメリットあっての提案だったとは理解しているつもりだ。


「それではもう一度別の質問です。今日呼ばれたのは私が総長派閥に入らないかどうかを見極めるためですか? それとも総長側へ寄らないための情報か何かを聞かせるためですか?」

「見極めるためと言うのは少なからず心の中にあったわ。でも後半は違う、対立候補が悪口を言っても効果ないでしょう。だからさっき言ったようにメインは興味があったから、噂のフランソワと言う生徒がどんな人か。それとついでに、既に総長寄りかどうかを知れたらなって言う所かしら」

「エルンの言う通りだ。総長寄りかどうかは僕が言い出した事だけどね。情勢を知っておくに越した事はないからね」


 どこまでが本音か少し読みづらいと言うのが正直な感想だ。

 エルンさんの含みのある態度とジェフさんの真面目そうな態度が意図を読みづらくさせている。


「分かりました。勘繰ってしまいすみませんでした。それでお二人から見て私はどうでしたか?」

「謝る事はない。勘繰る気持ちは生きていくのに必要だ。少なくとも僕にはフランソワさんが明確に総長側では無いと言う気がした」

「私もよ」


 その見方は正しい。実際私はまだどうするかは決めかねている。情報が足りないから。


「派閥に詳しいお二人にお聞きしたいですが、私が総長の派閥に入ることでのメリット、デメリットを教えて頂けないでしょうか。参考にさせて頂きたいのです」


 足りないなら集めればいい。聞くのに絶好の人物が目の前に二人もいるのだから。

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