第170話 更なる来訪者
次の日になるとまた私は新しい噂の人物となっていた。
その噂とはもちろん昨日の授業終わりにやってきた人物に呼ばれたと言うことだ。相手はこの学院の総長の関係者だ、だからこそいい意味でも悪い意味でも私を見る目はまた変わっていた。
やれ将来の総長候補やら、悪目立ちして先輩に目をつけられたなど、噂は尾ひれがついて回っていた。
そして今の目の前の光景もまた新たな噂の種になりそうな情景が広がっていた。
朝登校すると教室の前にいた男女が私を見つけるなり近づいてきた。
この人たちも昨日来ていた人同様で見た事もないし、同学年にしては大人びている雰囲気があるから恐らく先輩なのだろう。
「君はフランソワさんで合っているかな?」
男性の方からの問いかけに対して私は頷きで返事をした。
「見た事はあったんだが、自信がなくて。合っていて良かった」
当然私の記憶では見た事はない。
「何はともあれ会えて良かったわ。初めまして、私の名前はエルン」
「そうだね、まずは挨拶だ。すまない。僕の名前はジェフ。よろしく」
女性の方はエルンと言うらしい。下りた前髪から見える垂れ目はどこか母性を感じる。話し方もどこかこちらを安心させて来るような気さえする。
男性の方はジェフ。真面目と言う印象を受ける。腰の曲がらない立ち方は見ているこっちが疲れて来てしまう。
「よ、よろしくお願いします。それで私にどのようなご用件でしょうか?」
「そうね。貴方と少し話をしてみたくて誘いに来たの」
「お誘いですか?」
「えぇ。お昼の時間を頂けないかしら?」
「どうしてもと言われるのであれば……」
「それならどうしてもお願いしたいわ」
どこか相手のペースに流されてしまう。この人ちょっと苦手なタイプかもしれない。
「それなら構いませんが、どう言った内容なんでしょうか?」
「あまりここでは話したくないわ。出来れば内密な話よ」
なんだか胡散臭い話になって来た。さっき良いとは言ったものの、既に手のひらを返して断りたくなって来ていた。
「助かるよフランソワさん。それでは今日の昼休みに4階にある音楽室で待っているよ」
狙ってか、偶然かは分からないけど私の口を挟む間もなく段取りが組まれていく。こうなると私の最初の対応が間違っていたと後悔してしまう。
「別に悪いことをしようとかではないのよ。ただ、あまり広く聴かれたくない事ではあるし、私達もそのあたり言いにくくなってしまうのは理解して貰えると助かるわ」
「そろそろ戻らないと行けない時間になりつつあるな。それではフランソワさん、また後程」
「それじゃあね。お昼待っているわね」
一陣の風のように去って行った2人の背中を私は見つめることしかできなかった。
そんな2人が視界から消えると私はその場に立ちっぱなしの状態をやめて教室へと入る。クラスメイトからの視線が私に集中する。なんだか少し居心地が悪い。
「朝から大変ですねフランソワ様」
「本当にね。朝からなんなのかしら」
ユリの労いの言葉を聞きながら窓から見える鳥を見て心の底から「面倒くさい事じゃないように」と願った。
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