第110話 炎の探究者
その場を支配していたのは煙だった。
黒色に白色少し混ぜたような灰色の煙は3つの爆弾の爆発場所を中心に立ちこもっていた。
風の流れが明かりのない方にあるから停滞はせずに少しずつ煙は流れていく。
風と共に煙は爆弾を投げた男の方へ流れていく。
爆弾を投げた男は口元を腕で覆って煙が身体の中に入らないようにしていた。
「少しやりすぎたか」
こちらの視界が煙で埋まってしまっている。
さっきの爆発で目の前の男は無事ではすまないだろう。
だがその姿をすぐに見ることはできなかった。死んだにしろ、怪我をしたにしろその顔を見るのが楽しみだった。
驚きの表情で固まって倒れていればそれを見て私は興奮する。
怪我をしてうめいていれば、さらに追い討ちをかける。
どちらにしても私の楽しみに繋がる。
さぁどちらだ。煙が晴れた時、目の前に広がる光景は。
「さぁ。早く! 私に見せてくれ!」
幼い頃から火が好きだった。
赤く燃える形のない物は、周りをも巻き込んで大きくなっていく。その過程に憧れた。
いつの間にか自分で火を使うようになっていた。
最初は料理をしていた親元から火を木につけて燃える様を見て遊んでいた。
次はその火をもっと大きな木に引火させて大きく成長させた。
それを見た親は火を消すと共に怒り狂った。「何をしていたのか!?」その言葉に自分は答えた。「ただ、火を大きくしただけ」と。その言葉を聞いた親はさらに自分を叱りつけた。
それでも火への探求は止むことはなかった。
叱られる時間が勿体無いと思ったから隠れて火を使うようになった。
無機物に火を移すだけでは満足できなくなった。
最初は虫を燃やして、次第に対象は大きくなっていた。
幼い頃に読んだ絵本にあった火の魔法使いが出てくる話があった。
火を使って人々を導いた魔法使い、自分もそうなれないかと思っていた。
そして魔法の研究を始めた。文献を漁るために村を出て街へと出た。
だがいく先々の街の人間は冷ややかな眼差しをぶつけてくる。住んでいた村の人間以上に冷ややかな眼差しは迫害へと変わった。
魔法を信じる危険人物として扱われた。根も歯もない噂が街の中を独り歩きしていた。
街を追い出され、山の中で1人、火の活用性と魔法の研究することになった。
そんな日常の中で魔法信徒の誘いを受けた。魔法を信じる者の集まり、同じ志の仲間が体の一部に同じ紋様を刻んで同士として活動する。
魔法の研究に行き詰まっていた自分は喜んだ。何より自分以外に魔法の事を探し、研究している。そんな仲間がいた事が何より嬉しかった。
時が経って、ただの火の研究成果は成長していた。火を効率よく燃やすためにはどうしたらいいか。次に自分達を馬鹿にする、魔法を信じない不敬な輩をどう成敗するか。
そしてその成果が爆弾だった。
何故今この瞬間、そんな昔の事が頭によぎったのか。それを理解する事は出来なかった。
「何が見たいか知らねーが。お前の負けだ」
視界を遮る煙の中から1人の男が突然現れた。
その姿を視認して頭の中で認識した時に何故唐突に昔の事が頭によぎったのか理解できた。
過去の経験からこの場面をどう脱するかの策がないかを無意識のうちに探していた。
走馬灯のように。
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