第一発見者

吉川 「ということは、あなたが第一発見者なわけですね?」


藤村 「はい。まさか、こんなことになるとは」


吉川 「ところで、怪しい人を見ませんでした?」


藤村 「さぁ、私が見たときは、すでに怪しい黒いフードをかぶった男はいませんでしたけど」


吉川 「なぜ、黒いフードだと?」


藤村 「ギクッ!」


吉川 「なんだ、そのあからさまに怪しいリアクションは」


藤村 「いや、これは……急にぎっくり腰になってしまって。でも大丈夫。自然治癒しました」


吉川 「随分、瞬間的なぎっくり腰だな」


藤村 「いや、本当に怪しい怪盗黒マントなんて見てません」


吉川 「なぜ、怪盗黒マントだと?」


藤村 「ドキッ!」


吉川 「言ったでしょ? 今、完全にドキッ! って言ったよね?」


藤村 「言ってません」


吉川 「言った!」


藤村 「……言いました」


吉川 「なぜ、ドキッと?」


藤村 「……恋に落ちたからです」


吉川 「えー。恋かよ。恋のドキッ! か」


藤村 「でも大丈夫。自然治癒しました」


吉川 「恋ってそういうもんじゃないだろ」


藤村 「どうやら、若気の至りだったようです」


吉川 「あなたの言動、なんか怪しいんだよな」


藤村 「ズキューン!」


吉川 「言った! 今、完全にズキューン! て不自然なリアクションした!」


藤村 「言ってません!」


吉川 「言いました!」


藤村 「……言いました」


吉川 「なぜ、ズキューン! と?」


藤村 「挨拶です。我が祖国に伝わる、挨拶の言葉です」


吉川 「いきなり、あの場面で挨拶するのはおかしいだろ!」


藤村 「挨拶は、いつしてもいいものです! でも大丈夫。自然治癒しました」


吉川 「なにが治癒したんだ!?」


藤村 「挨拶は、呪いを打ち消す呪文の意味もこめられているのです」


吉川 「意味がわからない」


藤村 「あなたの運気が開けるように。2019年は飛躍の年になるように祈ったのです」


吉川 「もう過ぎてる。飛躍はともかくとして、知っていることはすべて喋っていただきたい」


藤村 「これはペンです」


吉川 「そういうことじゃありません。そんな知っていること全部言われても、処理しきれない」


藤村 「同感です」


吉川 「あなたは、怪盗黒マントを見た! そうですね?」


藤村 「ペロリ~ン♪」


吉川 「なんだ、その不自然極まりなく、しかも軽快なリアクションは!」


藤村 「レベルアップです」


吉川 「しない! 普通の人は、いきなりレベルアップしない!」


藤村 「私は本当は勇者だったのです。でも大丈夫。自然治癒しました」


吉川 「だから、なにがだ! なにが自然治癒したんだっ!?」


藤村 「そんなプライベートな事まで聞くんですか!?」


吉川 「そんなに言えないことなのか」


藤村 「部族の教えで、他言は無用とされています」


吉川 「あなたは、そもそもどういうところ出身なんだ」


藤村 「フッフッフッ……どうやら、お芝居もここまでのようだな」


吉川 「なにぃ!」


藤村 「そう! 私こそは、あなたの探している……藤村です」


吉川 「知ってるよ! それは知ってる」


藤村 「正体がバレては仕方がない」


吉川 「いや、藤村さんなのは、最初からバレてるから。教えてもらったから」


藤村 「……これを見ても、そんなことが言えるかな?」


吉川 「なにぃ!?」


藤村 「名刺です」


吉川 「いらないよっ! だから、知ってるって。なんなんだ、あんたは!」


藤村 「……どうやら、隠しとおせるのもここまでのようですな」


吉川 「ま、まさかっ!?」


藤村 「そう、私こそは、かつて、この帝都を闇へと導き、人々を恐怖の渦へと巻き込んだ謎の怪人物……藤村です」


吉川 「だから、知ってるって! しつこいよ」


藤村 「私が現れたからには、もう、藤川とは呼ばせない!」


吉川 「最初から呼んでないよ」


藤村 「おっと、少しばかりおしゃべりがすぎたようだ。それでは、失礼する」


吉川 「あっ!? その黒いフード、そして黒いマントは!? まさか、お前はっ!?」


藤村 「藤村です」


吉川 「知ってるよ!」


藤村 「スタタタタ……」


吉川 「あぁ……待て!」


藤村 「はい。なにか?」


吉川 「いや、今、スタタタタ……って」


藤村 「口で言っただけです」


吉川 「紛らわしいよ! なんだ、スタタタタ……って! 普通言うか、そういうこと」


藤村 「別に、何を言ってもいいじゃないか。言論の自由だ」


吉川 「確かに自由だけど、もっとTPOを考えて言って欲しい」


藤村 「ならば、これはどうだっ!」


吉川 「なんだと!?」



藤村 「暗転」



吉川 「……」


藤村 「言っただけです」


吉川 「もうなんていうか、帰っていいよ」



暗転

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