余命

吉川  「看護婦さん……あの……」


看護師 「はい、吉川さんどうしました?」


吉川  「私……死ぬんですかね?」


看護師 「あら、今日はいい天気だわ」


吉川  「あの、ものすごく不自然に話をそらしましたよね?」


看護師 「ほら、庭の木が……もうすぐ最後の一葉だわ」


吉川  「いや、縁起悪いっすね。その情報は知りたくなかった」


看護師 「吉川さん。大丈夫! 強く生きるのよ。あと少しだけど……」


吉川  「あと少しなの!?」


看護師 「あべ! 間違った。あと少しじゃないよ! 長い! 果てしなく長い!」


吉川  「そんなに生きちゃうのもやだ」


看護師 「死のうと思っても死ねない」


吉川  「火の鳥みたいだ」


看護師 「ですから、気にしないで下さい」


吉川  「気にするよ! 全然嘘っぽいじゃん」


看護師 「違います! 吉川さんは健康そのもの」


吉川  「いや、入院してるじゃないですか。その時点で健康じゃないですよ」


看護師 「そうだった。えっと……不健康的な雰囲気をかもし出しつつ、持ち前の頑張りとリーダーシップを活かし学級委員長を三回も経験」


吉川  「なに言ってんだ。学級委員を三回も経験しないよ」


看護師 「飼育係も一回」


吉川  「なんの!? いや、病気の話なんだけど……」


看護師 「あ、病気!? そっちですか」


吉川  「どっちだと思ったの!? 飼育係って」


看護師 「吉川さんは大丈夫です。今日の占いでも健康運3でしたよ」


吉川  「3て微妙だなぁ……しかも病院なのに健康は運に委ねちゃってるんだ」


看護師 「ちなみに藤村のおじいちゃんは10でーす!」


吉川  「藤村さん……今朝……」


看護師 「しまった! 今のはなかったことに!」


吉川  「ならないよ! なんかものすごい嫌な気分になった」


看護師 「ガーン! ガンだけに」


吉川  「なにそれ!? ガンなの!? 俺ガンなの!?」


看護師 「なぜそれを!?」


吉川  「なぜって……今、自分で……」


看護師 「ギャフン! ギャフンだけに!」


吉川  「いや、ごまかされないよ。なんだギャフンだけにって」


看護師 「吉川さんは陽性のギャフンです」


吉川  「なんだよそれ。病気なのか?」


看護師 「病気といえば病気だし……ツーといえばカーです」


吉川  「それはなに? そうですかってリアクションすればいいのかな?」


看護師 「ペーと言えばパー子」


吉川  「わかったから。もういいから!」


看護師 「Qと言えば小池さん」


吉川  「そうなの!? それは全然釈然としないけど……」


看護師 「ガンと言えば吉川さん」


吉川  「やっぱり! 俺ガンなんだ!」


看護師 「あ! しまった! ウソウソ」


吉川  「なんだ、嘘かぁ……っていうか、ばか!」


看護師 「バレちゃった。テヘ」


吉川  「テヘじゃないよ……なんだよ……まだ、心の準備できてなかったのに……」


看護師 「ドッキリ大成功!」


吉川  「大成功じゃないよ! なんだよ。本当にドッキリだ」


看護師 「ドッキリにひっかかった吉川さんには、私からの熱烈なキスのご褒美」


吉川  「いらないよ! そんな気分にはなれない」


看護師 「なんですって!? この私のキスのご褒美を……!?」


吉川  「すみません……今は結構です」


看護師 「この病院のミスと言われたこの私が……」


吉川  「へぇ……そうなんですか」


看護師 「そうよ! 医療ミスよ!」


吉川  「それは……悪口じゃ……」



暗転

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