嘘発見器

博士 「吉川くん、世紀の珍発明じゃ」


吉川 「どうせまたどうしようもないものを……」


博士 「今回の発明は人類の夢や希望をあっさりと打ち砕くスーパーウエポン」


吉川 「そんなひどいものを発明するな」


博士 「嘘発見器じゃ」


吉川 「まぁ、たしかに夢や希望を打ち砕く……かなぁ」


博士 「わしは常々、嘘にまみれた世の中に辟易してたんじゃ」


吉川 「自分こそ嘘を塗り固めたような人間の癖に」


博士 「そこで正直界のニューカマーことわしが一肌脱いだ」


吉川 「正直界ってなんだ。どこにそんな界があるんだ」


博士 「西荻窪じゃ!」


吉川 「えー。そんな具体的に言えちゃう場所にあるんだ」


博士 「正式には西荻正直会。わしは庶務じゃ」


吉川 「偉くないじゃん」


博士 「活動目的は恥ずかしいカミングアウトをしてもじもじする会」


吉川 「そんなの正直じゃない!」


博士 「ともかく、吉川くん。完璧なる嘘発見器の誕生じゃ」


吉川 「どれです?」


博士 「これじゃ」


吉川 「え、こんなに小さいの?」


博士 「そう。性能もさることながら、小ささと匂いにも気を配った」


吉川 「匂いはどうでもいいんじゃないかなぁ……」


博士 「何を言う! 初めはものすごく臭かったんだぞ!」


吉川 「どういう原理で臭かったんだ」


博士 「付近住民から訴えが出るほどじゃった」


吉川 「そんなに! 嘘発見器なのに!」


博士 「さぁ、吉川くん。装着してみてくれ」


吉川 「装着って……いったいどこに?」


博士 「もちろん鼻じゃよ」


吉川 「やだよ! そんな激臭の装置をつけられるか!」


博士 「バカだなぁ。激臭は開発途中。いまはとってもフレグランス」


吉川 「でもやだよ」


博士 「しょうがない。じぶんでつけるか……おぉ! フレグランス!」


吉川 「なにがフレグランスだ」


博士 「これをつけて嘘をつくと、あら不思議! 鼻が伸びるのです」


吉川 「えー、そんなのなの?」


博士 「ピノキオ方式を正式採用した」


吉川 「勝手に方式にしたてあげてる」


博士 「嘘も一発で見破れる」


吉川 「じゃぁ、何か嘘をついてくださいよ」


博士 「無理じゃ。わしはこう見えても西荻正直会の庶務じゃよ!」


吉川 「あ、伸びた!」


博士 「しまった……本当は庶務補佐でした」


吉川 「そんな微妙な見栄はるなよ! どうでもいいよ」


博士 「伸びた鼻は本当のことを言えば縮む」


吉川 「へぇ……」


博士 「拙者は忍者でゴザル」


吉川 「あ、縮んだ……え?」


博士 「内緒でゴザルよ」


吉川 「忍者だったの! 嘘じゃん。明らかに嘘じゃん」


博士 「吉川くんはわしを尊敬している」


吉川 「伸びた! まぁ、確かに尊敬はしてない」


博士 「尊敬しろよ。こんなすごい珍発明を繰り広げてるのに!」


吉川 「だから尊敬できないんだ」


博士 「さらに! この鼻のすごいところは、リンゴくらいなら伸びた鼻で軽々もちあげられる」


吉川 「すごい!」


博士 「あと鼻水も今までの何倍も蓄積できる」


吉川 「汚いな」


博士 「高いところにある木の実だって取れるし水浴びだってできるぞ」


吉川 「道具を使えよ。別に鼻でやらなくてもいいじゃん」


博士 「吉川くんはこの発明の良さがちっともわかってない」


吉川 「わかりませんな」


博士 「象は男のロマンだぞ」


吉川 「そんなの初めて聞いた」


博士 「象という字を思い浮かべてみなさい」


吉川 「象……」


博士 「な?」


吉川 「なにが、な? だ。何を同意させようとしてるんだ」


博士 「ロマンっぽいよなー」


吉川 「ちっとも共感できない」


博士 「吉川くんもこの鼻をつければわかるさ」


吉川 「……だってかっこ悪いじゃん」


博士 「そんなあなたに特別アタッチメント」


吉川 「なに?」


博士 「メガネとヒゲ付きだー!」


吉川 「だーって……ぜんぜん嬉しくない。恥ずかしさ倍増じゃん」


博士 「やがて恥ずかしさが快感に変る」


吉川 「あんたの変化にとんだ趣味を押し付けないでくれ」


博士 「ほぉら。吉川くん、こんなに大きくなっちゃったぞぉ」


吉川 「卑猥だなぁ」


博士 「吉川くんもつけてよー」


吉川 「臭いんでしょ?」


博士 「だからフレグランスだって!」


吉川 「なんだよフレグランスって。意味わからない」


博士 「いいからつけなさい」


吉川 「うっ……うぷっ……」


博士 「息を止めない!」


吉川 「あ! ……フレグランスだ」


博士 「じゃろ?」


吉川 「すごいよ! フレグランスだよ!」


博士 「吉川くん」


吉川 「うわぁ。目一杯フレグランスだ。フレグランス祭りの開催だ」


博士 「吉川くんっ!」


吉川 「フレーフレー! フレグランス!」


博士 「もういいっ!」


吉川 「フレグランス将軍の活躍により我が軍は破竹の勢いであります!」


博士 「もういい! ……鼻が……鼻が伸びておる!」


吉川 「……やっぱ臭いすよ。これ」


博士 「うん……臭いね」



暗転

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