2020/09/03『儚い羊たちの祝宴』

 米澤穂信著ミステリー小説『儚い羊たちの祝宴』を読了した。『古典部シリーズ』や『小市民シリーズ』を経てすっかり米澤流ミステリーの虜となってしまった僕は、中でも評価の高かったこの小説をポチることにしたのだが……これがまあ、面白いの何のって。ミステリー初心者を敬遠するような高度なトリックや仕掛けに頼らず、しかし脳髄を痺れさせるような陰惨で驚愕のラストで読者を楽しませてくれる。これをあの『人が死なないライトミステリー』の代表格である米澤穂信が書いたとは、全く、瞠目せざるを得ない。

 この小説は、『バベルの会』という読書サークルが絡む五つの邪悪な事件がオムニバス形式で展開されていく。その五つから最上の一篇を選べと言われれば、僕は一切の迷いなく『玉野五十鈴の誉れ』を採るだろう。レビューでも特に高評価だったこの話だが、実際読んでみてその理由がよぉく分かった。先の読めない展開、玉野五十鈴の人間性、そして事件の裏に隠れた猟奇的かつ狂気的な真実。何より、あのラスト一文。目を通した瞬間背筋が凍り、真実を理解し、引き攣った笑みすら浮かんだ。重大なネタバレなので控えるが、未読の方は是非とも読んでみて欲しい。

 それにしても、『また、同じ夢を見ていた』、『時給三〇〇円の死神』そして『儚い羊たちの祝宴』と近頃は豊作だ。ネットで小説を買うとハズレを引いてしまうことも珍しくないが、こんなにもアタリを引き当てられたのは僥倖。今後も心揺るがす素敵な小説と出逢えることを、ただ只管に嘆願したい。

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