第24話
賛成の正が書かれる度に、クラスのムードはみるみる盛り上がっていく。
もちろん授業中であるために大声を出したりはしていないものの、教壇から一望するクラスメイトの瞳の輝きが何よりも雄弁に語っていた。
最後の一枚を
結果的には、棄権が1票、反対が8票、賛成が25票という圧勝だった。
望んでいたことではあったけれども、実際に結果となって現れると感動する。
もちろん、この中には反対をしたものもいる。
単純にエロの欲望をほとばしらせているものもいるだろう。
それでも、誰かが誰かの気持ちを真剣に考え、自分で結論を出したということは揺るぎない。
愛泉手は目をうるませながらも、まだ泣いてはいなかった。
ボクの手を握ったまま、耳元に口を近づける。
「ダメだと思った。その時は、
そう言って両手でボクの手を取る。
「なん……だと?」
ボクはまぶたが固まったように目を見開き、ツバを飲み込む。
頭の中にはいつまでもその言葉がぐるぐる回る。
愛泉手が裸になることは、クラスのみんなに認められたけれど、いつ、どういう状況でなど、問題は山積みだった。
時計を見れば、二時間目の10分が過ぎ、
取り急ぎ、ボクは自分で開いたこの会をしめるために教壇に立った。
「とりあえず、結果は出たわけで。時間も過ぎてますから授業に戻らなくてはなりません。ただ、ボクの方から一言だけみんなにお礼を言いたいです」
自分でもあまり意識せずに口から吐いて出たお礼。
クラスメイトの表情は満足気で、奇跡を垣間見た興奮もあり、ボクの言葉を素直に聞いてくれた。
ただ、ボクの心の中にはさっきの愛泉手の言葉がめぐる。
ボクだけに見せたかった。
そうなってくると話は違う。ぜんぜん違う。
そりゃ、確かに愛泉手の夢を叶えたいとは思った。
そしてそのためにボクは頑張って、そして結果を出した。
でも、正直な話、ボクだけが見られるのなら、ボクだけが見たい。
いや、むしろ他の奴らなんかに見せたくない。
そんな下劣な感情が沸き上がってくる。
かと言って、いまさら反対をすることなんてできない。
結果は出てしまったのだ。
ボクの主張、全部嘘だったなんて言いたくないし、そんなことを言ってはボクの意見を認めてくれたクラスメイトたちにも失礼だ。
ボクは今まで自分の主張に嘘偽りはない。あの状況ではそこに理があると信じていた。
訂正なんてしない。できない。
だけど……いいのか、これでいいのか?
愛泉手の裸を、ボクだけが見ることができる愛泉手の裸を、みんなに見せてしまっていいのか。
この葛藤、ジレンマ、それを解決する方法が一つだけある。
あらゆることを丸く収め、華麗に逆転するウルトラCだ。
「いろいろな意見がありました。でもまとめてしまうと、この話し合いはボクたちにとって意義がありました。結果に納得の行かない人もいるでしょう。でも、それも含めて全部意義があるんです。くだらないことと一笑することもできたこの話題を、きちんと向き合ってくれたみんなに、感謝を。そしてこれこそがみんなの求めた意義であることを表明したいと思います」
ボクは素早く教卓の上に上り、一気にシャツとズボンを脱ぎ捨てた。
パンツを脱ぎ去り宙に放り投げると、それは華麗な放物線を描いて飛んでいった。
空気が、そして視線が、ボクの素肌に張り付く。
そうか、これだったのか。愛泉手が欲したものは。
確かに、気持ちが良い。
生まれ変わったような気分。
そう、生まれたままの姿という表現通り、ボクは生まれ変わったのだ。
イモムシからサナギへ、そしてサナギから蝶へ。
見てくれ、クラスのみんな。
これこそが、みんなの願った奇跡だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます