第589話-2 彼女は仕上がった『魔装弓銃』を手にする
「シャリブルさんからお届け物」
「ありがとう。ちょっと付き合ってもらえるかしら」
「問題ない」
赤目銀髪がワスティンの修練場からの帰り、シャリブルから預かったのは改良型の弓銃。比較可能なように、元の仕様のものも残してくれていた。つまり、いま彼女の手元には二丁の弓銃があるということだ。
「射撃練習場へ行く?」
「いいえ。城塞で実際に使ってみましょう」
「了解」
彼女は赤目銀髪だけでなく、魔装銃兵となる薬師組の一人、碧目栗毛を呼んできた。魔装銃と比較できる人がいた方が良いのではというもっともな提案である。
既に外観だけは完成している『街塞』の屋上へと移動する。
「結構見晴らしいいね」
「そう」
「確かに、風が気持ちいいわ」
三人は街道沿いにある立木を目標にする。凡そ100m程だろうか。弓銃なら有効射程外、魔装銃では『導線』が使えないと命中は期待できない。50m前後から弾がブレてそれてしまうからだ。
「あなたは魔装弓でお願いするわ」
「最初に試す」
魔法袋から愛用の『魔装複合弓』を取り出し、矢をつがえる。
PASHII!!
DANNN!!
立ち木に矢が突き刺さる。100mでも正確な射撃が可能。しかし、胸壁に当たる部分から上半身を乗り出す必要がある。
赤目銀髪なら魔力壁で防御しながらの射撃が可能なので問題ないが、普通は遮蔽から身を乗り出した時点で狙い撃ちされかねない。
その上で彼女は碧目栗毛に魔装弓銃を渡し、まずは弦を張るところから試してもらう。
「うううぅ……結構力いりますぅ」
まず、弦を張り、その弦を弓銃の鐙に足を引っかけ手で引き絞る。カチリと音がして鋼線が嵌る。
「重たい?」
「はい。身体強化してギリギリくらいです」
「軟弱」
「うるさい」
軽口を叩きながらも、かなり力を使ったようである。
まずは、普通に手で持って先ほどの立ち木を狙ってもらう。
「い、いきます」
PASHII!!
すかっとばかりに、立木から逸れて背後の草むらへと矢は吸い込まれていった。
「へたくそ」
「結構難しいね弓って」
「こっちはもっと難しい」
「すごいねー」
彼女は再度装填させ、『鐙』部分を折り曲げ固定する。
「これを胸壁の上に乗せて狙いを付けて見て」
「お、これなら上手く行きそうです!!」
PASHII!!
DANNN!!
本人の予想通り、弓銃の矢は見事に突き刺さる。
「なかなか」
「ううん、この金具で安定したお陰だよ。これなら狙い撃ちも簡単」
と息を合わせたように話をする二人。彼女は、魔鉛製の鎧用矢を取りだす。既に魔力は充填済みである。
「こんどは、これを使ってもらえるかしら。狙いは、『導線』を使って正確にお願いするわ」
「了解です!!」
三度目になると、装填の加減も慣れたようで容易に弦を引き矢を乗せる。
PASHII!!
BAAANNN!! BAKIBAKIBAKI……
「え、ウソ……」
「力入れすぎ」
「いや……先生……」
一抱えもある立木が圧し折られている。身体強化した騎士でも一撃で倒せそうな威力である。彼女はその出来に深く満足する。
「ええ、問題ないわ」
笑顔でそう答えたのである。
その日から、『赤目のルミリ』は弓銃の訓練が個別に加わった。教官は赤目銀髪と碧目栗毛。先ずは、自力で矢を装填できるようになるまでが……大変そうである。
「うっ、引けません……」
「こう、魔力を腰と膝の裏に集めて、グッだよ」
「ええ!! 腕じゃないんですか」
「腕で引くのではなく、腰で引くもの」
と、感覚派ではあるが、弓の扱いなど全くの初心者であるルミリには、理屈よりも感情で話をする方が理解しやすいだろうという配慮だ。それに加え、二期生の中では年長であるルミリと赤目銀髪は同年齢でもある。そういう意味では、彼女や伯姪が教えるよりも気が休まるのではないかという配慮もある。
『何とかなると良いいな』
「なってもらわなければ困るもの」
わずか六人での渡海、誰ひとりお荷物扱いするわけにはいかない。それに、最も警戒されないであろう少女にこそ活躍する機会が多そうだと彼女は考えていた。
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