第四幕『王太子宮』
第531話-1 彼女は偽リリアルと対峙する
リリアルの騎士服に帯剣した彼女と灰目藍髪は、目立つのを避けるため、フード付きマントをしっかりと身に着けていた。受付で騒いでいる若者は男女四人組の冒険者のようである。何事かと思いつつも、横の開いている受付へと向かう。
「いらっしゃいませアリーさん。ギルマスとの面会ですよね」
「ええ。そうです。連れが来るまで少し待たせてください」
「かしこまりました。先に、伝えてまいりますので少々お待ちください」
受付嬢はベテランであり、彼女が駆け出し薬師であった頃からの顔見知りでもある。チラチラと横の冒険者が二人に視線を送って来るのだが、気にせずスルーする。
「だから、この依頼、受けさせてくれって言ってるだろ」
「……等級が合わないので、受けていただけません」
「いや、固いこと言わないでさ。ほら、俺達これでも濃黒なんだぜ」
濃黒は、見習の最終段階のランクである。薄白・濃白が雑用や採取依頼だけしか受けられないのに対し、黒はゴブリン程度なら討伐依頼を受けることができる。とは言え、見習レベルである。
「これは、薄黄ランクの依頼。一体とは言え、オーク討伐ですから。ゴブリンや狼とは危険度が異なりますよ」
「大丈夫だって。なんなら、その二人もパーティーに加わってもらって、六人なら問題ないだろ?」
何やら、勝手なことを言い出したので驚く彼女、そして、一瞬睨み付けるような視線を送る灰目藍髪。
「なあ、二人とも冒険者なんだろ? 二人じゃ碌な依頼受けられないだろうから、俺達と組まないか。臨時でもいいんだけど」
「俺達結構遣えるぜ。なんてったってリリアル育ちだからな」
彼女は不穏な名前を耳にする。「リリアル育ち」とは何の事だろうか。
「リリアル?」
「なんだ、知らないのか」
意味を取り違えたのか、さも賢しげに『リリアル』について語り始める。それは、多少の真実を含んではいるが、大方、自分たちに都合の良いデマの類で会った。
「……というわけで、俺達がリリアル男爵様公認の冒険者っつーわけだ」
「そう。それは素晴らしいわね。けれど、リリアル生は冒険者登録をしていたとしても、冒険者として活動しているわけではないのはご存知ないみたいね」
「はぁあ? そんなわけねぇだろ。まるで俺達がリリアルの冒険者じゃねぇって言ってるように聞こえるんだが」
すました顔で話している彼女の横で、伯姪がその話に割って入る。
「頭悪いわね。だから、あんたらリリアルじゃないって言ってるんじゃない。そもそも、あんたたちなんか私は知らないわよ。ねえ」
茶目栗毛と灰目藍髪が頷く。
「リリアル生は基本的に魔力持ちじゃないと冒険者登録してないの。それに、指名依頼でもなければ受けないのよ。オーク討伐なんて普通の冒険者の仕事を奪うような依頼は受けないし、ギルドの規定通り、見習の間は魔物討伐を受ける事もないのよ」
「……え……」
「だから、ここにいる人が冒険者アリー。リリアル副伯本人で、私は副院長のニース男爵令嬢にして王国の騎士よ」
「「「……す、すみません」」」
すみませんですんだら官憲はいらない。といことで、ギルドから騎士団に経歴詐称とリリアルの名を騙る不届き冒険者として処罰してもらうよう、冒険者ギルドに依頼することにする。
「アリーさん。その、処刑はなにとぞご容赦ください」
「しょ、処刑ぃ!!!」
貴族であるリリアル副伯の名前を騙り、ギルド受付で横車を通そうとしたのだから、処刑されてもおかしくはない。
「そこまでは望んでいません。そうですね、冒険者等級の降格、それと、不人気な依頼の強制指名を一年ほど与えてくれれば許しましょう。それに、ギルドの受付でも分かっていて否定していなかったのでしょうから、あまり厳しくはできないでしょう?」
リリアルを騙った時点で「あんたら違うよね」と即座に否定できたはず。彼女自身が動かなければ、冒険者ギルドに直接リリアル生が現れることもないのだから、即嘘とわかるはずなのだから。
「それは……お許しいただければ……」
「それと、王国内の冒険者ギルドに『リリアルの名を騙る冒険者は即座に冒険者資格をはく奪する』と通達をお願いします。依頼の掲示板にもその旨を掲示してください」
「承知しました。のちほど、王都のギルドマスターから王国内に通達するようにいたします」
リリアルの名前が知られるようになり、『妖精騎士』よりも『リリアルの冒険者』の方が名を騙りやすいということもあるのだろう。今後、似たようなトラブルが無いよう、敢えて『騙った場合は冒険者資格剥奪』と罰則を示したのだ。
王都はともかく、地方で名をかたられたとしても彼女たちが知る可能性は非常に低い。揃いの意匠や紋章を身につけさせる必要性もあるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます