第528話-2 彼女は湖畔でオーク軍と対峙する


 船の「檣楼しょうろう」に登った碧目金髪が指をさして声を張り上げる。


「き、きましたぁ!!」


 見れば、剣戟の音が聞こえる方向の木々が揺れ動いている。


「構え!!」


 灰目藍髪の掛け声で、魔装銃組が飛び出してくる位置を想定し、銃口を森の出口へと向ける。森の中から、リリアル生二人が飛び出してくる。


「こっちこっち!!」


 彼女達のいる土塁の中に駆け込んでくる赤目銀髪と、茶目栗毛。


「お疲れ様。ポーション飲んで一息付けてちょうだい」

「ありがとうございます」

「数が多い。あまり削れなかった」


 赤目銀髪は無念そうな顔をするが、時間を稼いでくれたうえで無事であっただけで十分だ。


「選手交代だ」

「こいつのいいところ見てやってよね」

「……お前も仕事しろ」


 グレイブを構える赤目蒼髪に、魔銀鍍金製バスタード・ソードを手に剣の重さを確認するように振るう青目蒼髪。伯姪は、いつもの愛剣と魔銀のバックラーを装備している。それぞれが異なる間合いで戦う気満々である。


「これ、使うわ」

「試してみてちょうだい。魔力切れに注意してね」


 バックラーを握る手には『スティレット』を握っている。伯姪も『飛燕』を使うことができる。いざという時の飛び道具である。




 喊声を上げながら、十数体のオークが湖畔に現れる。装備は胸鎧に一部が兜らしきもの、そして、盾を持っている。古帝国の重装歩兵に近いだろうか。

腰には手斧、腕には身長よりやや長い短槍を掲げている。


『構エエェェ!! 吶喊!!』


 羽飾りのようなものを兜に付けたひと際大きな指揮官らしきオークが、咆哮にも似た大音声で指示を出す。ビリビリと空気が振動し、オークたちの突撃速度が勢いを増す。


「まだよ!! 止まるまで待て!!」


 船上で声を張る灰目藍髪。


 BUHOOOOOO!!


 声を合わせて一気に土塁を駆けあがるために、手前の壕に飛び込んだオークたちに向かい、無慈悲な詠唱が始まる。


terracarcer


 切り下げた壕の端がさらに削れ、湖面と繋がる。ゴウぅとばかりに水が一気に流れこみ、オーク達はその水の勢いに足を取られ転倒する。仮に、水が無ければその逞しい筋力にあかせ飛び上がり、または駆け上る事もできたかもしれない。


 とは言え、盾と短槍を装備した状態で、よじ登るわけにもいかない。


 水に飲み込まれる先頭を見て、後方のオークが脚を止める。


「放て!!」


 POW!!


 POW!!


 POW!!


 POW!!



 足を止めたオークに魔装銃が放たれ、次々命中し激しく弾ける。弾丸は彼女の魔力を込めた『魔鉛製』の弾丸。ただの鉛であったとしてもプレートを撃ち抜く威力を発するが、魔鉛であれば、その威力は十倍にも達する。


 指揮官を始め、胸に子供の頭ほどもある大穴をあけ次々に後方のオークたちが倒されていく。二斉射、三斉射と続き、湖畔には先頭のオーク分隊で立っている者は残されていない。


「はあぁ!!」


 水面に浮きあがったオークの頭めがけ、素早くグレイブを突き出す赤目銀髪。二度三度と繰り出す薙ぎ払い。魔銀に魔力を通し、硬いはずのオークの頭蓋を次々に砕いていく。


「これ、長柄有利よね」

「バルディッシュにしようかしら」

「ふふ、回り込まれたら接近戦になるから、あなたは慣れた装備にしておいた方がいいでしょう」

「それもそうね」


 自分たちが手を出すまでもない状態で、彼女と伯姪は感想戦の最中だ。


 すると、後方から新手の一団。数が一個小隊三十ほど。最初から盾を構え戦列を整えている。ジリジリと湖畔に達し、亀の甲羅のように盾を連ね密集して現れた。


「見事ね」


 彼女は現在の土塁を放棄し、後方に新たな陣地を形成し移動するよう冒険者組に促す。相手が警戒している間に、素早く次の展開へと移行する。


「最初はあのくらいいた」

「どうやら、運用単位のようです」


 赤目銀髪と茶目栗毛の所見。オークは三十程度の『群』、すなわち王国でいうところの小隊規模が運用単位のようである。傭兵団もそのくらいが一つの目安であり、いくつか集まったものが『中隊カンパニー』と呼ばれる運用単位となる。小隊長は幹部傭兵というところだろうか。


テストゥド」陣形を取って慎重に前進する二陣のオーク小隊。しかしながら、この運用が仇となる。


「これを!!」


 黒目黒髪に預けた『魔笛』を灰目藍髪が受け取る。


「牽制を。船を寄せて!!」


 魔導船をひと際岸に寄せ、魔装銃の射撃を「亀」に行い、脚を止める。


 そこに、ラ・マンの悪竜を討伐するに至った『魔笛』の魔鉛弾が着弾する。


 DWOONNN!!


 盾を構えた中心に着弾した魔鉛弾が弾け、半数のオークが弾け飛ぶか弾き倒され無防備な姿をさらす。そこに、更に容赦のない射撃が加えられ、第二陣のオークもあっという間に殲滅されたのである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る