第497話-2 彼女は『人造岩石』の硬度を知る

 いくつかの作業小屋、学院前のニース商会の支店の倉庫、老土夫の工房の資材置き場などを人造岩石製で作り直した歩人は、仕上げ確認の際、通常弾の魔装笛を赤毛娘に打ち込まれ耐えるテストを無事通過し、なんとか合格点と見なされる施工をできるようになっていた。


 その期間、一週間ほど。


「やればできるじゃない」

「やればできるおじさん!!」

「手加減してぶっ放してくれてサンキュな」


 試験官である赤毛娘に感謝を述べる歩人。


 これで、寮の作成を始めることができるようになる。


「作ってすぐ引っ越しではないのよね」

「完全硬化までに時間が多少かかるでしょう? 魔術による硬化の度合いを緩めて、自然に固まるのを待つようにしようかと思うの」

「なら問題ないわね。一気に全部作るわけでもないでしょうし」


 寮は三階建てにする予定である。木造の物と違い、最上階には城壁よろしく『胸壁』を形成する。リリアルの居館自体には防護設備はないため、まずは寮を強化する予定なのだ。


 王妃様の離宮に勝手に手を加えるわけにもいかない。




 ネデルから帰還した直後、副伯陞爵の話を聞き、彼女はしなければならないことがあった。


「男爵の時と同じように……」

「駄目だよ。それに、これから王弟殿下の供として社交をする必要があるんだからこの機会に何着かドレスを作らなきゃじゃないか。アイネなら幾つもドレスを持っているだろうから借りれないでもないけど……」


 祖母が口ごもる。そう、彼女と姉では背丈が似たようなものでも、体のサイズはかなり異なる。二回りくらい小さい。どことは言わないが。そうすると、似合うデザインも異なるし、つける装飾も変わって来る。


「リリアルらしく、水色かね」

「水色に銀の刺繍でしょうか」

「刺繍が時間がかかるから、ある程度余裕をもって頼まないといけないね」


 王族の身に着けるような精緻な刺繍が入るものは、それこそ年単位で準備することになる。


「今回は、胸回りと裾だけでいいだろう。夜会用でもないし、水色ではそれほど刺繍も目立たないだろうからね」


 帝国で幾つか入手したドレスやワンピースは商会令嬢の為の者。王都を散策や仕事で出歩くには問題ないが、王宮に身に着けて行けるわけではない。


「王弟殿下のエスコートの際には、何着かドレスを用意してくれるだろうから、それを見て……になるだろうね」


 王弟殿下が公務で同行する際の衣装を用意してくれるという話である。仮想婚約者役を務める上での、必要経費というところだろうか。


「あの坊ちゃんは、王都でそれなりに社交は務めている。公務ではなく趣味でね。だから、女性の身に付けるモノの流行くらいは抑えているから安心して貰っておきな」

「深い意味を考えずに……でしょうか」

「ああ。流石に王大后の望みでも、私が目の黒いうちはやらせないさ。それに、王弟とお前が釣り合うわけがない。あんなのは、血筋だけでも王族の女と結婚して子供を産むくらいしか役に立たないんだから。子爵の娘じゃ、王弟妃にゃ身分が足らない。そもそも、妃の実家の権勢頼りで生き延びなければ先の無い男が、あんたを選ぶわけがないからね」


 なるほど。国王陛下には王太子がおり、その王太子が男子を持つまでの予備の予備に過ぎない王弟にとって必要なのは、王太孫が生まれても公爵・王族として相応しい生活を保障してくれる大貴族の嫁である。


「そんな大金、あの人の為に使えません」

「ああ、出来るだけ遠くの女王の王配に送り出したいもんだね。けど、あのダメ男が母親のいないところで好き勝手すると、相手の国と王国の関係が悪くなるかもしれないから、やっぱり適当な公爵位を与えて飼い殺しがいいんだろうね。王都の近くの小領主辺りがおにあいさね」


 リリアルは生徒が倍増し、リリアルの財政は火のクルマ化しつつある。陞爵し、封土や収入が増える事を切に望むものである。


 資金の為に、今あるリリアルの装備を一般に売却するわけにはいかないのだから、収入増を考えるに、大金を持っている……例えば私掠船の上前を刎ねるような活動をする必要があるかも知れないと彼女は考えていた。

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