第443話-2 彼女は『剣奴』と対峙する
かなり燃えてしまっているが、どうやらサラセン人か東方の人間のようである。首枷がはめられているところを見ると、戦闘奴隷の類かもしれない。
『剣奴ってやつか』
古帝国時代であれば、興行としての剣闘士の試合があり、その多くは戦争により身柄を拘束された帝国と戦った諸民族の戦士であった事もある。今では、その様な奴隷がいると聞いたことがないのだが。
「装備を回収した」
「……これが暗器ね」
円盤状の金属の外側に刃を付けた物である。
「これを投げつけたという事でしょうか」
「これ、内側に指を入れてクルクル回すのかも?」
危ない!! すっぽ抜けたらどうするの!! と彼女は内心焦る。
「それはこの後時間がある時にゆっくり検証しましょう。倉庫に何かないかどうかざっと確認した上で、改めて、向かいの部屋を探りましょう。今の騒ぎで、もうバレているでしょうから。堂々と押し込みましょう」
「……」
考えているようで、実は力押し大好きであることにそろそろ皆慣れて来る頃である。
しかし、内部に侵入して捜索するのも面倒な気がする。
「一気に燃やすべきかしら」
「いや、こちらの捜索が困難になるのではありませんか?」
「魔剣士はともかく、アンデッドは呼吸しないから、むしろ不利」
多数決であっけなく否定される。とはいうものもの、あきらめの悪い彼女は討伐完了後、この中庭の木造構造部物を燃やそうと心に決める。
倉庫の中には特に生活用品のようなものは見当たらず、討伐した『剣奴』はどこか別の場所で生活していたのかもしれない。
「では、向かいの扉を開けましょうか」
どう考えても待伏せされているのではないだろうか。『ゼン』は、この奥の回廊を捜索してからではどうかと提案する。
「間を開けてタイミングをずらす事も必要ではありませんか」
確かに、今すぐでは相手も張り詰めた状態でこちらに対するかもしれない。また、『猫』の情報だと残り魔剣士は三人いるはずである。全員が奥の部屋にいるとは思えない。
「では回廊を周りましょうか」
「早くしないと夜になる」
吸血鬼は存在しないとしても、ノインテーターも能力向上に多少は影響するだろうか。野戦では普通に暴れていたように記憶している。グールの上位互換レベルであれば、特に問題ないのだが。
「今回は私が前衛を務めます」
「……お願いするわ」
「真ん中希望」
剣と片手には……魔装糸と魔銀鍍金錘の『ボーラ』が握られている。剣士には拘束する武器も有効かもしれない。また、魔力を込めたダメージは有効だろう。
魔剣士の多くは、身体強化と魔力纏い程度しか扱う事はない。例えば、ルイダンあたりが典型であろうか。素早く動き、魔力を纏わせた装備で攻撃を行う事で、相手に致命的な打撃を只一撃で加える……というスタイルを好む。
故に、『ゼン』には「魔力壁」を上手に使い、剣を往なすように彼女は何度も訓練していたのである。
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