第395話-2 彼女は『魔鰐使い』を誘う
『で、どうすんだよ』
「そうね、まずは、アゾルと同じ痛みを味わってもらいましょう。目には目をよ!」
ひと際大きな『魔鰐』は、いつぞやのラマンの悪竜を思い出させる威容を誇っていた。恐らく、甲羅を持たなくても外皮は同じように固いと理解できる。
「さて、久しぶりに剣になりなさい」
『出番か!』
彼女は『魔剣』をスクラマサクスの形状に変化させ、その剣身に魔力を注ぎ込む。相手の外皮を覆う魔力より、更に密度を濃く、分厚い魔力を纏わせれば……斬れない事はない……多分。
魔鰐は、彼女が『水馬』で突進してくるのに気が付き、待ち構えているようだが、一瞬で彼女は空中に飛び上がり、魔力壁を踏み石に飛び越えるとそのまま後ろ脚の付け根あたりに『魔剣』を叩きつける。
Gwaaaaa!!!Gwaaaaa!!!
その尾の長さは5mほどもあるだろうか。太さは一抱え程もある。尾を失った魔鰐は大きく咆哮し、彼女を追い求めるが、既に気配隠蔽をしたまま、次の攻撃へと移る。
「はあぁぁ!!」
右の後ろ脚、そして左の後ろ脚。尾を斬り落とされ、一気に生命力を失った魔鰐は、簡単に二本の脚を斬り飛ばされる。そして、彼女はそのまま放置することにした。
『前足だけで逃げられるのかよ』
「そのくらい魔物なんだから出来るでしょう。そろそろ、飼い主様が現れるはずよ」
尾を失い、後ろ脚も傷つけられた魔鰐はのたのたと水路を戻り、恐らくは魔物使いの元へと戻っていくのだろう。
彼女は魔力走査を用いて距離を取りながら『魔鰐』の跡をつけていく。その前方に小さなとても小さな魔力を感じる。どうやら、魔物使いが待ち構えているようだ。
『隠蔽か?』
「それにしては下手過ぎるわね。恐らく、たんに魔力が小さいだけなのではないかしら」
彼女を含め、魔力の多いものは隠す鍛錬もしっかりするので、中途半端な大きさとはならない。全く感じさせないか、驚くほど大きいかのどちらかだ。大きすぎて隠し切れない……等という事はない。
すると、魔鰐の姿を目にしたのか物凄い大きな絶叫めいた声が聞こえる。
『うおぉぉぉ!!! ど、どうしちゃったのマリカたん!!!』
「マリカ」というのは、内海を挟んだ対岸の大陸にある国の言葉で「女王」を意味する名前であっと彼女は記憶していた。
岸辺に黒いフードをかぶった、かなり細身で長身の男がのそのそと岸辺に這いあがってきた尾のないワニに縋り付き泣きわめいているように見える。
「感動の再会のところ申し訳ないのだけれど……あなたこの魔鰐の飼主だと考えてよろしいのかしら」
「……だ、だれだ!! マリカたんの飼主ではない。我が飼われているようなものなのだ!!」
どうでもいいが、魔鰐が本体で男が化体とでもいうのだろうか。
「あなたの主観はどうでもよろしい。では、その魔鰐ごと……討伐するわ」
「お、お前がマリカたんをぉぉぉ!!」
彼女は『魔剣』の変化した魔銀剣スクラマサクスで『マリカたん』を首の後ろで叩き斬ると、返す刃で男の両の膝下あたりを斬り落とした。
「ぎゃあああ!!」
「ほら、あなたのマリカたんお揃いにしてあげたわよ。それで、今すぐ死にたいのならこのまま殺すけれど……マリカたんとお揃いで良いかしら?」
男は首を激しく左右に振る。どうやら、マリカたんとは別の道を歩むようである。飼主がマリカたんからリリアルたんに変わったのかもしれない。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
水路を戻ろうと考えていた彼女のところに、赤目銀髪が『水馬』で颯爽と滑走してきた。かなり、魔力の制御が上達して、水馬の推進が上手にできるようになっている。
「調子はどう?」
「まあまあよ。これが魔物使いの……『
「よ、よくはない。脚、脚があぁぁぁ……」
ちょっと……いやかなり短足になってしまった。とりあえず止血し、傷口にポーションを掛けて死なないようにしておく。斬り落とした脚はボチャンだ。
「名前」
「あ、名前がなんだよ……がああぁぁぁ……冗談ですぅ、わ、我の名はセルウスと申しますぅ」
『なんだよ、やっぱ奴隷じゃねぇか』
セルウスというのは、古の帝国語で『奴隷』を意味する言葉である。膝から下を失ったセルウスは二人に首の後ろをつままれ、水の上の引きずるように魔導船まで運ばれていく。
「ガボッ……息が出来ねぇ……グハッ……」
「このままメイン川まで船に縛りつけて運びましょうか。素直なよい子になるようにね」
「確かに、素直が一番。何でもお話してくれるようになると良い」
『普通に拷問してやれよ。まあ、水責めっちゃ水責めか』
二人の水馬はスイスイと運河を進み、ガボガボと暴れるオッサンを引き摺っても問題ないほど順調であった。
膝下を斬り落とされた『魔物使い』セルウスを見ても、魔導船に残ったメンバーは特に関心が無いようであった。
「意外と執念深いな。アゾルと同じ待遇にしたのか」
「ふふ、この程度のことは生かしておくのに十分な刑罰でしょう。この方から、魔物使いがどのような経緯で神国のネデル総督府に雇われたのか、詳しく聞きただして欲しいの」
「承知しました」
茶目栗毛が拷問……審問担当になる。助手は灰目藍髪。騎士として、容疑者・犯人を責め、調書を作成する業務もある。女性だからと言って舐められていては騎士の仕事は務まらない。良い経験となるだろう。
「先生、指は何本残せばよいでしょうか?」
「そうね。斬り落とさなければ構わないわ。ポーションで治せる範囲で潰してちょうだい」
「お、おいいぃぃぃ!!!!」
魔導船の甲板に魔装馬車を出し、魔力を通して中の叫び声が聞こえないように工夫しながらお話を聞いたのは言うまでもない。
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