第二幕『帝国行』
第311話-1 彼女は灰色乙女と帝国に向かう
彼女が精霊魔術を身に付ける事で、変化する者がいる。伯姪は、彼女の不在の間、リリアルを預かる事になる事を考えると、今の自分にはない切り札を持ちたいと考えていた。それは勿論、精霊魔術ではない。
「飛燕……私にも使えないかしら」
彼女の見せた『飛燕』に関心を強く持っていた伯姪が尋ねる。
「魔力量の消費が大きい技なのだけれど……大丈夫かしら?」
『魔剣』の話は正しかった。身体強化や隠蔽を無制限に継続できる彼女においても、連続して数十発撃つのが限界であったのだ。伯姪であれば、二発か三発だろう。これは、他のリリアル生でも同様だと考えられる。
「それほど沢山使うつもりは無いわよ。結界だって一つが限界なんだから」
伯姪曰く、不意打ちされた味方を護ったり、決め手に欠くときの切り札として持っておきたいのだという。
「それに、魔力量が少ない私からすれば、何日かかるか分からないじゃない? 今なら学校に通っている最中だから、それほど負担にならないと思うの。チャンスなのよ!!」
伯姪は接近しての戦い方に特化している分、間合いを取る相手とは相性が悪いことはわかっているのだ。必要だと思う気持ちはその通りであると考えた彼女は、伯姪に『飛燕』を教える事にした。
結局、それなりの期間が習得には必要であり、騎士学校卒業までには身に着けることができたのだが、伯姪が学院生に教えることができるようになったことは、この後有効であったことが分かるのである。
伯姪の『飛燕』の実演。騎士の叙勲を受けた者たちは、特に注目している。茶目栗毛は魔力量が微妙だが、他のメンバーは問題なくニ三度は使用できるだけの魔力を有している。剣が飛び道具となる技、盗まないわけがない。
「お手柔らかに」
「帝国の高位冒険者にお相手頂けるなんて、とても光栄だわ!!」
試演の相手はビルが務める。吸血鬼……吸血達磨……は、試し撃ちの相手を散々に務めているので、今回出番はない。
剣を構え、魔力を高めていく。一瞬で飛ばせないところが魔力量・練度の差でもある。
剣を斜めに振り下ろすと、空中を輝く魔力の塊がビルに向かい飛んでいく。技の発動は成功。但し……
Baciii!!
魔銀のロングソードでその飛ぶ燕をビルが斬り飛ばす。
「うそでしょ?」
「はは、魔銀の剣でなければ切断されていましたよ。これなら、十分に実戦で使えるでしょう」
伯姪は「もう一度いい?」とビルに問いかけ、魔力を練り始める。ビルは笑顔で「何度でもどうぞ」と答える。
『オリヴィの相棒だけあって強ぇな……』
『魔剣』の呟きに彼女も頷く。
そして、伯姪が魔力の斬撃を発する。しかし、今回の燕は二羽だ。
斬撃が弧を描き、左右から僅かな時間差でビルを襲う。
「をおぉぉ!!」
歓声が上がり、そして……片手剣で一羽目を斬り飛ばし、二羽目は……
「……ホントうそ……」
Baciii!!
Baciii!!
小手で殴り飛ばしたのである。
「魔銀の小手でなければ、危うかったですね。でも、今の技は有効だと思います。一度目の技を出した後、「斬撃は一つ」と錯覚していた可能性もありますから。出来れば、同じ技を二度出した後、今の連撃を出せば、更に有効でしょう」
「……魔力がギリギリなの。……で、も、そうできるようにするわ……」
魔力切れで倒れ込む伯姪は、力強い目でそう答えた。
ここで終わりかと思っていたリリアルメンバーであるが、意外な人物から声がかかる。どうやら赤目銀髪が、新しい魔術を考え付いたのだという。というよりは……
「思い出した。お父さんの『魔術』……『舞雀』」
赤目銀髪の父親は優秀な狩人であったという。魔物に襲われる村を守り、孤軍奮闘し帰らぬ人となった。その技を間近で見て目に焼き付けていたのだが、ようやく、その一つを再現できるようになったのだという。
試射場でお披露目をしたいという事で場所を移る事にする。
今日は非番であったはずの吸血鬼たちが、思わぬ来客に嬉しい悲鳴を上げている。
『イタイノハイヤダアァァァァ!!』
『魔力ノ刃ガトンデクルゥゥ!!!』
伯姪も相当練習したようである。
吸血達磨の的に向け、魔銀鍍金の鏃をつがえる。ヒョウと放たれた矢は、明後日の方向に向かって飛んでいく。曲射というレベルではない見当はずれの方向。それが……
「えっ、なんでそんな風に曲がるの」
薄い胸を張り「これが『舞雀』」と赤目銀髪が告げる。大きな弧を描き、不自然な角度で突き刺さる鏃。周りから大きなどよめきが聞こえる。
「それって、何なの?」
赤毛娘の質問に、更に得意げに答える赤目銀髪。だが無表情。
「魔力走査の応用。矢と自分の魔力を繋げたまま飛ばす事で、ある程度矢の方向を事後に動かすことができる」
「魔力の紐付き矢を飛ばすのね」
赤目銀髪が頷く。弾丸では難しいが、矢羽根のある矢であれば操作することも干渉することも可能かもしれない。
「なら、その羽の部分を魔装布で加工すれば、もっと操作は容易になるのではないかしら?」
「……流石先生。慧眼」
こうして、父の技を再現し、さらに一段上回る工夫を行う事で、赤目銀髪は父の背中にまた一歩近づけたのではないだろうかと彼女は思う。
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