第309話-2 彼女は灰色乙女に帝国行を打診する

 王妃様から「社交の場にも出ていらっしゃい」と、商売絡みで王妃様の主催する夜会への招待を受ける事になる母と姉は、「親子でコーディネートしないと!」と張り切り始めた。最近思うのだが、母と姉の性格はかなりよく似ている。祖母を苦手とするところも共通。


「王妃様の紋章入りのラベルに差し替えるのにどのくらいかかりそうかしら?」

「うーん、二週間……十日くらいかな」

「では、それが完成しだい、旅立つことにするわ」

「任せておきなさい。オリヴィちゃんも妹ちゃんをよろしくね☆」


 帝国に姉が付いてきそうな勢いであったが、「ニース商会の顔」としてかなり顔が知れ渡っている存在が同行することで大いに目立ち、また警戒されてしまう。彼女の知らないところで姉は姉の計画があるようで、「今回は見送りだぁ」と一応の納得はしている。


 出発までの期間が少し伸びたことで、リリアルで行う仕事も少し増やすことができた。




 老土夫に呼ばれた彼女が工房に向かうと、新しい魔装短銃が用意されていた。今までのものとの相違は、銃身が魔銀の合金で作られていることである。


「これは……相当大変であったのではありませんか」


 彼女の推測に、癖毛と老土夫が頷く。


「しかし、リリアルの盟主が帝国に自ら赴くのに、護身用の装備も整えねばならんだろう。今回は短期間かもしれんが、今後は分からん」

「そうそう。みんな心配してんだぜ。先生の事は信用しているけど、でも不死身ってわけじゃねえからな。その気持ちをこの銃に込めたって感じだ。餞別代りに持って行って欲しいってこと」

「……ちゃんと帰って来るわよ。縁起でもない」


 いや、そういう意味ではなく、皆の心配する気持ちを汲んでもらいたい。


「この銃身が魔銀と鋼の合金だ。強度は剣より高めている。魔力を通しても通さなくても発砲できるが、通せば火薬を増やしたのと同じ効果がある。ダメージも大きくなるな」


 火薬を多くすることで爆発力を高め威力を増すことができるが、その分、本来は銃身に負担がかかり寿命を縮めたり暴発の危険も高まるのだが、魔装銃はその限りではない。


「装飾部分に魔銀鍍金を施してあるから、これに魔力を通して殴ると、魔銀製メイスみたいな効果もある。アンデッド対策になると思う」

「実験しましょうか」

「……いや、一応あの吸血鬼たちで試した。先生がやると死んじまうから、やめて上げてくれ」

「そう……残念だわ……」


 魔銀製ゆえに、鈍い光り方をしているのだが、それはそれでよいと思うのだ。




 帝国に潜入するにあたり、装備を整えなおす必要も少しある。


「サクスやウイングド・スピアだと帝国では目立っちまう」


 老土夫曰く、剣であれば『ハンター』と呼ばれる護拳のついた片手剣の系統が良いだろうという。


「魔銀製の刃に変えたものを装備すれば問題なかろう。所謂、街用の剣だが、拵えを少し重厚にする」

「どっちかって言うと、ワルーンWallonソード Swordに近い感じに仕上げるつもり。片手剣だけど刺突も斬撃もできる感じに」


 それを五人分、揃えてもらう事にしようとか彼女は考えた。


「それと、バゼラードの短剣も魔銀製を用意する。こっちは鍍金だ。数は、それなりに多めに持たせるので、上手く使ってくれ」

「ありがとう。きっと役に立つと思うわ」


 魔銀のバゼラードを使って石垣でも破壊するつもりなのだろうか。魔力を通して斬り裂けば、その程度の事は彼女にはできそうである。


「その他は、使い込んだ革手袋とか革鎧、それと長靴は今までの物を使う感じだろ」

「坊主、マントを忘れておる。帝国は寒いからな」


 野営の際の毛布代わりになるように、厚手の毛織物……に見えて、内側にポケットが沢山つき、尚且つ魔装布を挟み込んだマントを渡される。見た目に反して、その着心地が良いのは魔装布の効果かも知れない。


「これを纏って寝ておけば、魔力持ちなら剣や銃弾の攻撃は防げる。

不燃ではないが、魔力がある間は燃えもせん」


 燃えもしないという事だが、水も弾くのだろう。このマントをあと二つ追加で用意してもらいたいことを二人に告げる。当然、オリヴィとビルの分だ。


「ああ、勿論用意してある。そいつは、餞別みたいなもんだ」


 魔装のマントの他に、手袋と頭巾、オリヴィにはコルセットも用意してあるという。


「急がせて申し訳ないのだけれど、お願いします」

「おお、任せておけ」

「バッチリ用意する」


 暫く、工房ともお別れになる。帝国で長柄の武器というと何が流行りなのか。恐らくは、ハルバードなのだろうと見当をつける。これも、魔銀鍍金製で良いので、用意しなければと思うのである。


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