第274話-2 彼女は帝国の魔剣士の腕前に驚く
ジジマッチョたちは、その夜、守備隊長と深夜まで大いに語り合い、ジジイ同士の交流が深まったようである。
その晩はヴィーの予想通り、吸血鬼らの襲撃は無く、死霊術師が行うミアン攻撃には吸血鬼は関わりがないと判断された。
「あいつら、基本的にここ勝手に活動しているから、重なるのが偶然」
ヴィーは夜型生活を送っているのか、昼前まで起きてそこから寝るようである。吸血鬼の活動時間に最適な時間帯に起きているのが癖になっているので、昼から夕方が睡眠の時間になっている。
「健康に悪そう」
「まあね。その代わり、薬草煎じて飲んでるから大丈夫!」
「大丈夫なわけないのだから、私たちは真似するべきじゃないわよ」
「勿論です! やっぱり早寝早起きが成長の秘訣ですから☆」
赤毛娘……君の場合、よく食べてよく眠る(ながく)じゃないでしょうか。
「そう言えば、姉さんも良く寝てる人だったわね」
「ん、呼ばれたかな?」
騎士団の駐屯所の食堂に……何故か野生の姉が現れた!!
「みんな、お疲れ様! 差し入れ、持ってきたよー」
型崩れ系フィナンシェが山盛りに入った籠が置かれる。
「おお、フィナンシェじゃない!」
「あれ、初めまして、私は妹ちゃんの姉です。あなたはどなた?」
帝国の魔術師の前での相変わらずの姉である。魔術師としてもそれなりの遣い手である姉が、ヴィーを見誤るわけがないのだが、いつもの前振りである。
「初めまして、男爵の姉上様。私は帝国の冒険者にして魔術師のオリヴィ・ラウスと申します。以後お見知りおきを。この男は相棒のビルです」
ビルはフィナンシェを両手に握り口に運びながら黙って会釈する。
「ふーん。帝国の冒険者さんね。妹ちゃん、この人たちは信用できるの?」
誰もが思いつつ、口にはしていないその質問を姉は軽々と言葉にしてみせた。相変わらずの怖いもの知らず……の演技が上手だ。
「ええ。彼女と私たちは利害関係が一致しているの。それに、帝国の精霊を用いた魔術師とお会いしたのは初めてなのだけれど、とても見事な術を行使するわ。もし仮に、この方たちが敵の偽装であるとするなら、ミアンも私たちも無事では済んでいないもの」
妹の説明に姉は大いに気を良くしたようで頷く。
「うんうん、リリアル男爵としてしっかりお仕事しているようで何よりだよ。えーと、私はニース商会会頭夫人のアイネ。今は只のアイネさんだけど、その内、ノーブル女伯になると思うの。あと、旦那はニース辺境伯の三男坊だよ。よろしくね!」
「ええ、こちらこそ。王都に伺った際はお相手頂けると嬉しいわ」
姉は元気よく「OK!!」と答えウインクする。
「騒がしい姉で申し訳ありませんねヴィー、そしてビル」
「いいえ、陰でコソコソ疑われるより、ハッキリ言って貰えてうれしかったわ。それに……」
「これほど美味い菓子をくれる女性が、悪い人なわけがない」
ビルは既に六個目のフィナンシェを口に入れており、リリアルの女の子たちから「イケメンだからって何やってもいいってわけじゃない!」と、魔装布のグローブに魔力を通され、腹パンされてしゃがみこんでいた。
「なんだか、見た目と中身がギャップがある人たちだね。うん、悪くないよ!!」
姉は手をひらひらさせながら「王都で遊びましょう!!」とその場を去っていった。
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