第三幕『ワスティンの森』

第214話-1 彼女は公爵令嬢と『ワスティンの森』に向かう

 幸い、『ワスティンの森』は、リリアルから騎士学校を経由して南下した先にある場所である。金曜の夕方学院に戻った二人は、準備を整え、ゴブリン討伐を行う事にする。


 今回サポートを依頼するのは、いつもの討伐メンバーである、赤毛娘・黒目黒髪・赤目銀髪・赤目藍髪・青目藍髪に……


「わ、私もですか?」

「あなたには斥候に出てもらったから。現地の情報を持っている人が欲しいのよ」


 藍目水髪に茶目栗毛である。勿論、彼女と伯姪も同行する。兎馬車は三台で移動となる。





 騎士学校に到着すると、既に門前には二人の冒険者の姿が見て取れた。


「お待たせしました」

「いや、今来たところだ」


 挨拶を交わし、他のメンバーは現地で紹介することにして、彼女と伯姪の車両に二人を乗せ、先頭を移動する。冒険者として、先行する車両は周囲の警戒も仕事のうちだと、敢えてカリナには見張の役を担わせる。


「なるほどな。それに……後備の車両を手本にせよ……ということか」

「よくできました! 流石に子供の頃から良い教育を受けているだけあるわね」

「女とて、分け隔てなく指導者とならねばならぬからな。ギュイエには女王のいた時代もある」


 連合王国の王とギュイエの女王が結婚した結果、連合王国の王がギュイエ出身という時代があった。女王の先夫は王国の国王であり、国王は……フラれたのである。独立心旺盛な女性であり、王と対等に振舞ったという。


 因みに、女王はギュイエを統治し、最愛の息子に跡を継がせた。その息子は『聖征』で有名な「英雄王」その人である。マザコンになるのも仕方ない。


「騎士も冒険者も女性であることを言い訳にはできないから、向いているかもしれないわね」

「確かに。それに、女だから云々と言われぬのが心地よいな。男兄弟のいないアリーには分からぬだろうが、都合の良い時だけ男女を別にする兄弟のなんと鬱陶しいことか!!」


 美貌と知性と強さを兼ね備えた公爵令嬢カトリナにとって、兄弟はまさに自分を否定する好ましからぬ存在なのだろう。


「あなたが継げばいいのではないかしら?」

「ふむ、戦争でもあって上が皆死に絶えればな。とは言え、その時は別の王族から婿を貰って公爵を継がせることになるだろうが。私は公爵の母となってギュイエを豊かにすることにしようか」


 清々しいほどの男前発言をカトリナはするのだ。




 

 兎馬車で下る事二時間余り。日が中天に達する前に森の入口に到着する。馬車から降りたリリアルメンバーと、カリナ、ミラの二人は互いに自己紹介する。


「冒険者になりたてのカリナだ。今日はよろしく頼む」

「ミラと言います。お手伝いよろしくお願いします」


 ミラはお手伝い・・・・と明確に意思表示をした。それは、文字通り依頼の念押しである。


「勿論です。ゴブリン百匹狩れるかな!! で行きましょう☆」

「百匹はいないよね? 半分くらいって聞いてるけど」

「そうそう、でも、上位種がいるから。油断しない方がいいよ」

「……問題ない。三人でもお釣りがくるレベル……」


 薄赤等級が七人もいるゴブリン狩りってかなりの贅沢である。先行する赤目銀髪と藍目水髪が別行動。周辺を一通り確認し、巡回中のゴブリンを先に始末し安全を確保する。


 前衛は茶目栗毛と依頼人二人、その後方をバックアップの赤目蒼髪・青目藍髪の槍持ちが続く。後方はそれ以外の四人。


「道具持ちと、討伐用の杭打ちがお仕事のメインよ」

「少数でゴブリン討伐する時のテストケースにしたいんですよね」

「二期生と一期生で六人の分隊を作るつもりなの。その組み合わせで討伐や採取の依頼をするから、六人で巣穴の駆除ができるようにするには、ある程度工夫も必要でしょう」


 五十匹のゴブリンを六人で狩れるようにする。それは、恐らく、グールや他の魔物の討伐にも応用されるのだろう。



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