第164話-1 彼女は老土夫に魔装銃の提案を受ける
王妃様と王女様に、ドラゴン退治の事となりを……赤毛娘が説明する。
「宿でぐーたらしていたら、突然『ドラゴンが出たから、急いで南都に向かえ!』
って連絡がきたんです!」
「……ぐーたらしてたのね……」
『そりゃそうだろ。あの日は半分オフみたいなもんだしな。討伐と探索続きで流石に休ませてやりたかったからな」
王太子がドラゴン発見の報を聞き、彼女と『魔熊使い』を連れだって川沿いを移動する場面を説明する。
「『魔熊』を操る魔獣使いですの」
「幼獣を育てた『魔熊』ですので、姉とも母とも慕っておりますので問題ありません。
それに、『念話』で会話もできます」
「ほえぇぇ、魔獣とお話しできますの。是非、お会いしたいですわ。ねえ、お母さま」
予想通りの展開。間違いなく、個々に呼ばれるだろう。
「彼女が大変美しく、また淑女でもある。そうだね、男爵」
「短い付き合いでしたが、彼女は『傭兵』として貴族のエスコートを任務として受ける事もありましたので、貴族のマナーも身に着けております」
「それは素敵なお話ね。魔獣貴族……なんてファンタジアね」
富豪令嬢とか刑事貴族みたいなんだが……まあいいか。
「彼女はサボア公爵と傭兵契約を結んでいてね。でも、更新せずに王国の騎士爵に任じて、南都周辺に領地を与える事にしたんだ」
「「素晴らしいわ(ですわ!!)」」
脳内は完全に熊と戯れる図が完成している王妃様王女様である。魔力の毛皮だからあんまりモフってないけどいいのかなと彼女は思うのである。
「かなり巨大な熊です。5m以上の大きさになります……」
「……え……」
「が、子犬ほどの大きさの子熊となる事も出来ますのでご安心ください」
「「素晴らしいわ(ですわ!!)」」
このくだり二回目。
南都に迫るドラゴンを誘引するため、単騎で仕掛ける彼女の行動の下りは、話を聞く王女様の表情の方が悲壮感たっぷり。
「なぜそのようなことを……」
「『水馬』で川の上を移動しながらドラゴンの鼻先で注意を引き付けるのは単独の方が安全でしたし、なにより、時間稼ぎですから数は少ない方が良いと思いました」
「……水馬……」
王女殿下は自分も持っている魔道具『水馬』がドラゴン討伐の重要アイテムであることを知りテンションが上がる。
「川岸からドラゴンまで流れに沿って下りながら近づき、背後に回り込んで川の流れに逆らうように並走し、注意を引き付けたのです」
「……川の流れに逆らう……つまり、魔力を制御すれば水の上を自由自在に動けるという事ですわ!!」
王女様の魔力は黒目黒髪並……つまり『大』クラスである。
「男爵の魔力制御は絶妙だからね。水の上は移動するわ、ドラゴンには大斧を構えて飛び上がって斬りつけるし。その後、ドラゴンが吐き出した毒の中和も魔力水を霧状に変えて、これはリリアルの皆が協力してくれたがね。まあ、本当に魔力に関しての応用が優れているね」
その後、「王女も心して鍛錬するんだね」と付け加える。王女殿下は二年前より格段に魔力制御は上達しているが実戦となるとどうなるかは分からない。練習でできても実戦では出来ずに死ぬ騎士や、魔術師は沢山いる。故に、実戦経験の有無は重要な判断基準となる。
「わ、わたくしも魔物退治がしてみたいものです」
「うーん、成人してからかしらね。護身術の仕上げにお願いしようかしらー」
誰にお願いするのかとは敢えて聞かない。結界を展開すれば安全に討伐自体は可能であるし、王女殿下の魔力制御で『隠蔽』『身体強化』『魔力察知』も問題なく可能だ。魔装衣と魔銀鍍金の武具を用いれば安全性はさらに改善される。
「その時は、あたしたちもお供します! 王女殿下!!」
「そ、それではその時はよろしくお願いいたしますわ!!」
赤毛娘……まあそれは言わずもがななのであるが、気持ちの問題として答えることはやぶさかではない。
そして、王妃様からは「またいらっしゃいねー」と帰りしなにお声がけいただいた。リリアルを訪問するのはスケジュール的にも頻繁にとはいかないのだが、騎士爵となった彼女らが訪れるのは容易である……つまり、「お前らもっとちょくちょく遊びに来いよ」という事なのだろうと、彼女は理解した。
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リリアル学院に戻ると、彼女はさっそく老土夫のもとを訪れる事にした。魔装馬車の二輪馬車発注の件について相談する為である。
「おお、先触れもあったし二輪であれば構造的には兎馬車とあまり変わらんから何とかなるかの」
「車軸と荷台の間に王家用の馬車同様ばねで衝撃を抑える工夫が必要です。それと、架装は王家の職人がするようですので、車体だけの納品ですが、後部の立ち台は必要だと思われます」
彼女が老土夫に伝えると「一応試作は出来ている」との答えを貰う。併設する倉庫に移動すると、確かに二輪馬車がある。
「走行テストを近隣で行った後、お前さんが長距離テストを行う……という感じだろうかな」
「おそらく、ばねの仕様の調整だけですね。他の部分は兎馬車と変わりがなさそうですから」
「馬と兎馬では体格が違う故、車輪の大きさが変わる。その分、消費魔力も増加するが速度は上昇するな」
確かに、兎馬車より10㎝ほど半径が長いだろう。
「次の遠隔地での依頼があればその時にでも使えばよかろう」
「……そうですね。しばらくないことを祈りたいのですけれど」
副元帥の任命式にデビュタント……その後になるまでは何か依頼を受ける気にはとてもなれない。
老土夫は倉庫の奥から、更に何かを持ち出してくる。それは、フリントロック式のマスケット銃のようである。
「水晶がかなり手に入ったのでな。儂のできる範囲で応用していこうかと思う。手始めにこれじゃ」
彼が持ち出したのは何やらフリントロック銃である。フリントロック銃をリリアルで用いる事は無いと思うのだが、理由を聞く。
「火薬の代わりに、水晶に込めた火の魔法と水の魔法を使う。魔導士に水晶にその術式を刻ませたのでな。ほれ、こうして」
水晶内に術式が刻まれている。魔術師にはできないが、一定の技術を学んだ魔導士は水晶や武具に魔術の式を書き込むことで魔力を通した際に魔法が発するよう加工することができる。その究極が魔導騎士の装具となる。魔装馬車などより高度な技術である。
「この術式はどなたが刻んだのですか」
本来、魔導士は王国により管理されており、その術式も同様なのだ。
「儂は簡単な物なら刻めるぞ。なんなら、あのクソガキに仕込んでも良い。まあ、人間のものとは少々違うので、奴らの装具と組み合わせるわけにはいかんがの」
ドワーフの血が混ざる癖毛なら扱えるという事なのだろう。彼女は礼をのべ「是非に」と伝える。
「それで、火に水を掛けると爆発するな」
「まあ、そうね。じゅわっと水が湯気になるわね。それが?」
「その熱で水が気体になる蒸気の力で弾丸を飛ばす。火薬は不要じゃ」
「……素晴らしい技術です……」
得意満面の老土夫にいささかムカつくが、それはどうでもいい。つまり、火薬の詰め替えをせずに延々と水晶が魔力を保持できなくなるまで発射し続けることができるという事だろう。
「火薬の燃焼より熱がこもらないので、銃身も長持ちする。何より雨に強い」
火薬が点火できない場合、弾丸は発射されない。火薬が湿らないようにするのはとても大変なのだ。また、火薬の材料も入手が難しく、そのすべは当然商業ギルドや職人たちに抑えられている。
戦争一つとっても、商業ギルドに逆らえば継戦能力を失うのだ。水晶式であればそれも関係ない。
「水晶に魔力を込める時間は?」
「一瞬じゃ。お前さんなら1か月撃ち続けても問題なかろう。その程度じゃ」
弓銃でなくとも使える可能性が高いが、鏃の加工と同様の事は出来ないだろう。とは言え、魔力小レベルの子たちが鉛の弾を抱え、次から次へと寄せる兵士に弾丸を打ち込むのは弓銃に勝る。
「水晶の耐久性はどの程度なの?」
「今のところ千発まで試したが、その先はまだわからん。儂は万はいけると思ってるがな。水晶の質を上げればさらに伸びるじゃろ。今回のは使い捨てでも構わないものを選んで、魔力で加工しなおしておるからな」
術式を書き込む前に、不純物を取り除いた精製水晶とでも言えばいいのだろうか。術式自体が大した大きさでないことから、小指の爪ほどのものを使用している。叩きつけても水晶が破損しないように加工もされている。
「悪くなかろう」
「ええ。ただ、騎士団や貴族に知られれば、火薬要らずの銃など何を言い出すか分かりませんので、形を工夫したいものですね」
フリントロック銃そのものの形をしているそれを、銃の先に槍の穂先を付け、『廃銃を再利用した槍』とでも評して、『孤児どもが貧乏くさい事をしている』とでも思わせれば良いかもしれない。
「ほお、そりゃ面白い。使い古しの銃を使うか」
『汚して使い古された感じにしてもいいんじゃねえか。銃身は別にしてだな』
相手を騙すようなことは『魔剣』は大好物だ。
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