第121話-1 彼女と姉はルーンの話を王妃様と王女様に語る
さて、その後は宮中伯の陣頭指揮の下、ルーンでの不正な武器の流出と、武器の密輸が認められ、冒険者ギルドのマスターとその一族は処刑される事となった。また、冒険者ギルドの職員たちに関しては特に罪に問われる事は無かったが、他の冒険者ギルドでの採用は一切ないとされた。
新街区の冒険者ギルドは王都から派遣された職員と、ルーン市街出身者以外から採用された職員で運営されることになり、また、引退した元ベテラン冒険者が一部復帰し、後進の育成のために指導職員という形で在籍することとなった。
指導職員は行く行くは騎士団駐屯地の衛士や新街区の衛兵などに採用されたり、冒険者相手の商売を始める事になり、王都とコネクションのある人間が新街区では活動場所を広げていくことになる。
「まあ、あの街の中に入らなくて良くなるのは悪い事じゃないわよね」
「そうそう。橋の通行料も街に入る為の税金も高いしね。それに、周りの村の代官も取り上げられてあの街の城壁の中に閉じ込められて……まるで墓標みたいね」
ルーンの貴族がルーン以外に出かけることは厳しく制限され、事前に代官である宮廷伯の承認が必要となった。また、貴族の義務ともいえる王家主催の夜会にも出席を認められなくなったのである。
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「久しぶりですね二人とも。ルーンでは随分と御活躍されたとか」
「いえ、責任を果たすことができてホッとしております」
王都にほど近いルーンで貴族が巻き起こしていた連合王国への内通と、王国民への裏切り行為。その結果、離散し行方知れずになった村人や冒険者が多数いる事を王妃様は把握されている。
「少し、冒険らしい事もありましたし、王国の為にお仕事できたかと思いますわ」
「冒険!! 冒険の話、聞かせていただけますか!!」
王妃様は「はしたないですよ」と王女様を窘めるのであるが、最近、王女・大公妃教育で大変であることもあり、今日は大目にみますとのことである。
「何からお話いたしましょうか……」
「あれだね、クラーケン退治の話とかじゃない?」
「わたくしも、そのクラーケンの身を食しましたわ」
「そうですね、薄味で健康的なものでしたねー」
王妃様、美味しくないとおっしゃって構いませんのの事よと彼女は思うのである。
彼女は、クラーケン討伐の話をしつつ、『水馬』を使い四人でクラーケンを囲んで討伐したというところ辺りで、王女様が「わ、わたくしも水馬に乗りたいですわ!!」と身を乗り出してきたところで、王妃様が提案をする。
「溺れないくらいの小さな池であれば、少し運動代わりに使うのもいいと思うの。ええ、私がやりたいわけではないのよ。でも、私と王女の分を誂えていただけるととても嬉しいのよー」
うん、ガッツリ自分でやりたいのでしょう。つまり、その教導の為にも水馬を渡して終わりとはいかないのだろう。
「あ、それ、お姉ちゃんも参加したい。てか、参加確定だから、三人分だね」
「……リリアルの紋章入りのものが欲しいですわー」
「それは素敵なアイデアね。お願いできるかしら?」
王妃様にお願いされて「無理です」とは言えないだろう。それに、恐らくだが老土夫と癖毛は大喜びで作ることは間違いない。
「他にはどんなことがあったのかしらー」
「村人は村長以外全員……連合王国の偽装兵にすり替わっている村がございました」
「……なんということなのでしょう。それで、村の方達はどうなったのかしら……」
王妃様は心底心配そうに、王女様は既に涙目である。
「村長は言うことを聞けば家族を返すと言い包められていたようです。しかしながら、お年寄りや幼児は森に捨てられてゴブリンに殺されていましたし、若い女性や子供は奴隷として恐らくは連合王国に。男性も一部は奴隷に、一部は……何らかの魔法実験に利用されているようです」
彼女は未確定な「アンデッド化」の話に関しては言葉を濁した。そして、ここ数年の間に、ルーン近郊の村落が多数無人・廃村となっていたものの、その事実はルーンの貴族である代官が徴税を上手に誤魔化していたため、王国として把握できていなかったことを告げると、王妃様は考え込んでしまった。
「家族がバラバラに、言い包められてとは恐ろしい事ですわ」
「はい。民が反乱を起こすことを恐れて戦う事を教えないことで防げる問題はありますが、抵抗することもできないで敵国に知らぬ間に乗っ取られているのは問題はあります」
「では、アリーならどう考えるのですか」
彼女が思うのは、抵抗する力を持ちつつ喜んで王国の為に戦える心理的な環境を作ること。王家に対する親愛の情を持てる国造りが必要だろう。既得権のあるものが不当に豊かになる半面、苦しく貧しく日の当たらない民もたくさんいるのである。
今日より明日が良くなると信じることができれば、小さな不満は大した問題ではなくなる。リリアルの孤児たちが頑張れるのはそういう事なのだろう。それは、誰でも同じなのだ。
「リリアルで為せたことを少しでも広い範囲で進めていくことでしょうか。今日より明日が良くなると思える国にできるお手伝いをすることでしょうか」
「ふふ、いい答えですね。民が自ら武器を取り、自分の居場所を守りたくなるようにするべきなのでしょう。その矛先が王家や王国ではなく、敵国に向くようになるかどうかは、私たちの心がけ次第ですもの」
王妃様はそうおっしゃると「手伝えることは何でも相談してちょうだい」と付け加えたのである。
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