第120話-1 彼女と姉は市長とお茶会で対峙する
一斉立ち入り調査が入り、先ずは冒険者ギルドのマスターから取り調べが始まり、その行動を裏付ける各種の書類の整理から始まったのであるが、追加の人員、細かい書類は王都の騎士団本部での分析を行うという判断から、冒険者ギルド以外の書類は全て王都送りとなっている。
「それでも、随分たくさんの書類ね」
「登録冒険者の特定からね。それは、あの子たちに手分けして行ってもらいましょうか」
登録日別に並べている者から、既に死亡が確定している者を外し、現在、ルーンで受けている依頼の書類と照らし合わせ、最終的に未達の依頼との紐づけを時系列で行うのである。
「時期的には二年くらい前からかしらね」
「人攫い騒動があった前後からでしょうね。足らない分をルーン近郊農村や冒険者で調達したんでしょうから」
余りに多数の未達依頼があり、そのまま冒険者が失踪していることが他の支部と比較して突出しているなら、受付担当の職員中心に取り調べを行う根拠となる。冒険者を使い潰し王国に害をなすギルドなど、許しておけるわけがない。
結果として、この一年程で数十件の依頼未達成が発生しており、その場合、「冒険者と連絡が取れなくなった」とか「冒険者の失踪」としか結末が記録されていない。
未達の依頼に関しては、冒険者ギルドで依頼内容を再調査したうえで適切なランク付けを行い、前回の失敗した冒険者の情報を受諾した冒険者に教えて注意を促すのが当然なのだが……
「何も変わらず、最初の依頼と同じ内容でそのまま受けさせているわね」
「何それ、隠さないにもほどがあるわね。ギルドの運用ルールに反しているじゃない。こんなに未達の依頼があって、放置しているとかあり得ないわよ」
「ええ、明らかに共犯ですと主張しているようなものね」
つまり、ルーンの冒険者ギルドは人攫いの組織の一部であったという事になるのだろう。
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「おお、アリー、メイ、冒険者ギルドの書類の件助かったわ。これで、捜査が前に進む」
「何よりです。ギルド職員も隠蔽に関わっていますので、上手に誘導して
情報を聞き出していただけると思います」
「牢屋には一人ずつ入れて、会話させないようにして個別に情報を聞き出すさ。なに、牢屋なんか入ったことのない裕福な家の出が多いから、すぐに音を上げてピーチクパーチク謳い始めるだろうよ」
騎士隊長は「宮中伯様が来られる前に話が進んでよかったー」と呟く。彼女と伯姪は……ちょ、待てよと思わざるを得ない。
「どちらの宮中伯様でしょうか」
「そりゃ、リリアルの前任院長であるアルマン様だよ。諜報関係はあの方の専任だから、しばらくここで捜査の陣頭指揮を執るんじゃないかな」
姉が大人しくなることは良い事だが、それ以上に二人がこき使われることが目に見えているので、がっくりとしてしまう。
「いや、今回はそうでもないと思うぞ。ここまで冒険者である一男爵が関わって問題を浮き彫りにしたのだから、細かな裏取りは俺たちの仕事だろ。そこは、変わらないと思うぞ。まあ、頼まれごとは多少あるだろうけどな」
隊長は「アキラメロン」とばかりに笑顔で手を振り去って行った。
「でさ、お姉ちゃん、アルマン様が来る前に、市長とお茶会しておきたいんだけど」
「……何故この時期にそんなお誘いがあるのかしら」
「えー それは、いいところ持っていかれる前に、リリアルで引導渡した方がお姉ちゃん的にすっきりするからだよ。市長も腹を探りたいんじゃないの。情報が皆無だからさ」
姉は、自分たちを誘導して最終的にルーンでニース商会が勝手なことができる特権的地位を確立したいのだろう。相変わらず、状況を利用するのが上手い姉である。ニース商会の強化はリリアルにとってメリットがあるので、お互いに協力するのは悪くないと思うのだ。
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