第85話-2 彼女は学院生とゴブリンの村塞を討伐する

「あっぶねー」

「……任せて……」


 見張櫓には、二頭の魔狼が屋根越しに飛びかかろうとしている。それなりに炎が立っている小屋の屋根なのだが、魔狼的には問題なく足場にできているようで、助走して見張櫓に飛びかかってくるのだ。


 赤目蒼髪がミスリルのバックラーを中心に結界を発動させ、飛びかかる魔狼の前面に壁を形成。当たった魔狼が地面に落ちるが、流石に無傷だ。


「それ、それ、それ」


 器用に足元に向け『被り射ち』を決めた赤目銀髪が次々と足元の魔狼の背中に矢を突き立てていく。


「俺も負けられねえな」


 見張櫓の横木に跨り、覗き込むように魔狼に矢を突き立てる歩人。かなりのダメージを与えたが止めを刺すには至らない。


「ああ、出て行っちゃう!!」


 赤目蒼髪が言う通り、二つのゴブリンの集団に生き残りの魔狼が村塞の外に向かい逃げ出していく。とはいえ、矢でかなりのダメージを与えている魔狼と小鬼も多く、ナイト以外は満身創痍に見える。


「まあ、俺たちは援護と監視の仕事だから。あと、燃え移りそうなら、水球で火を消さねえとな」

「……わかった……」

「は、はい。継続して監視します!!」


 赤目蒼髪はまだ直接ゴブリンを討伐していないので、残念な気持ちになっていたのだが……赤毛娘が狂ったようにゴブリンを叩きのめす様子を見て……


「今日はいいか……私……」


 と思う事にしたのだった。





 殿を務める青目蒼髪と碧目水髪は同じ魔力中班の仲間なのだが、大体は赤目蒼髪が仕切るので、二人はあまりお互いで会話をする事は無い。とはいえ、小動物のような碧目水髪と青目蒼髪は仲は悪くなかった。


「壁で抑えて俺が止めを刺す。頼むな」

「は、はい!! 任せてください!!」


 大猪と対峙したことを考えると、彼女も彼もゴブリンにあまり危険だと思う感情を抱いていなかった。学院生ペアは冒険者の左右後方に距離を取って展開しているので、反対側のペアの様子はよくわからないが……


「あいつ、滅茶滅茶冷静だよな……」


 茶目栗毛、武器の操法も冒険者中堅レベル、その他の技術も先生並みに身に着けている。孤児院に入る前に色々身に着ける機会があったというが、年の近い同性が活躍するのは少々妬ましい気もある。


「が、頑張りましょう! 安全第一ですよ!!」


 緊張した中にも空気を和らげようと気を遣う碧目水髪の声に我に返る。先ずは、この子と自分が無事に生き残る事だけを考えなければならない。そう思い返し前を見ると、中から橋を渡りゴブリンと傷ついた魔狼が一団となり

出てくるのが見えた。


「来るぞ!」

「ははははい!」


 遥か手前から結界を展開する。そこに傷ついた魔狼がぶち当たるが、所詮、大猪と比べれば小物界の大物に過ぎない。


「はぁぁぁ!!」


 魔力付与の剣を壁越しに魔狼の目に突き立てる。いきなり動きを阻まれ困惑する魔狼にその剣先を躱す余裕はなかった。すかさず、崩れ落ちた魔狼の首を斬り落とす。


「やったぞ!」

「なんだか……私たちやれそうです」

「ああ、そうだな。次も頼むぞ!」

「はいです!」


 こうして、二人は数匹のゴブリンと最後はゴブリンナイト1体を共同で討伐することに成功する。





「いいのか、子供たちにゴブリンが向かっても」

「あいつらは護衛対象じゃないですからね。危険そうなのはこっちで引き受けてますから問題ないですよ」

「アリーはスパルタなのよね。私には無理だわ」

「あいつらと年変わらないからなー。その辺は、情状酌量の余地があるんじゃねえのか?」


 ゴブリンナイト二体と魔狼二体を討伐し、小物は後備の学院ペアに任せている薄赤パーティは、橋の手前で中から出てくる魔物を警戒している。とはいえ、事前に話を聞いていた数に既に達しているようで、燃え上がる建物があることから、このまま村塞の手前で警戒を続けている。


「お疲れさまでした」

「お疲れさん!!」

「おおお、おっお疲れ様です☆」


 彼女と伯姪、最後はちょっとテンションのおかしい赤毛娘である。


「おお、中はもう魔物はいないのか?」

「ええ。監視は物見櫓のメンバーに任せて火炎が酷いんで出てきました。ある程度燃えた後、消火してという感じでしょうか」


 彼女は討伐の完了を伝えるように、伯姪と赤毛娘に依頼すると、後備の学院生に向けて歩いて行った。


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