僕の街


 僕の住む街の人達はみんな同じ顔だ。でも、それぞれに個性がある。


 住宅街を歩く人達はだいたい不気味な笑みを浮かべている。苦笑いとも取れる、口角が上がった表情はどれも気持ち悪い。数十人に一人くらいの確率で、上手く笑えている人がいる。


 家に引きこもって出てこない人がいる。涙を流しながら枕を抱いている。その家の扉に手を当て、声を掛ける人がいる。他の家にはナイフを眺めては手に取り、首に当て、机の上に戻すというのを繰り返している人がいる。また他の家には賞状を見つめて動かない人がいる。


 路地裏には汚れた人達がいる。ドブ水を浴びて力なく倒れている人や、手に持つ財布を見て喜ぶ人や、自分の嫌いなところを挙げている人、傷だらけの人など様々。


 大通りはたくさんの人がいる。住宅街同様、笑って歩く人がほとんどだが、中には奇声を上げる人やそこら辺にいる人に暴力を振るったり、射殺、刺殺する人がいる。そんな日常的な光景を見て嘆く人もいる。歩くことをやめて惚けている人もいる。偽善活動に励む人もいる。


 地下にある檻の中には有刺鉄線でぐるぐる巻きにされた人が呻き声を上げている。別の檻には問題用紙と回答用紙を読み上げては考え込む人や、間違い探しを本気で悩む人や、唯一まともにコミュニケーションを取れる人がいる。


「今日の街の様子はどうだった?」


 唯一まともにコミュニケーションを取れる人が話しかけてきた。その人は目が死んでいて、唇は荒れていて、痩せ細っている。ここは病院であるべきなのだろうか。僕には分からない。


「いつも通り、クソみたいな街だよ」


 胸糞悪くなるほど綺麗で汚い街。巨大な檸檬が欲しくなるものだ。


「ははっ。やっぱりそんな簡単には変わらないか」


 乾いた笑い声。


「まぁ、また明日にでも街の様子を教えに来てよ」


「忘れてなければ、な」


 僕は無表情で街を歩き回るただの観測者だ。

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