口止め


 スマホを開くと日付が変わっていた。血の匂いが漂う路地裏。スマホの光に目を細めつつ、電話をかける。


「今回もちゃんと殺しましたので、遺体回収の方お願いします」


 全身返り血まみれ。寒いし、臭い。血を隠すためのコートを着て、フードも深く被る。早く帰ってお風呂に入ろうと現場を立ち去ろうとした時だった。背後から足音が聞こえ、振り返る。


「あれ、藤川さん?」


「せ、瀬戸くん!?」


 思わず大声を出す。同じ大学に通う、しかもよりにもよって好きな人に殺人現場を目撃されるとは思ってもいなかった。


「ちょ、ついてきて!」


 瀬戸以外の人であれば躊躇なく殺していただろう。でも、私は好きな人を殺すなんてできない。


 私は瀬戸の手を掴んで強引に自宅へ向かった。瀬戸は黙ったまま、私についてきた。


 あぁぁぁぁぁどうしようどうしようどうしよう!


 手を掴んでいるドキドキと殺人現場を見られた焦燥感が入り交じって何をしたらいいのか分からない。


 そうだ、家に瀬戸を連れ込んでも状況の解決にはならない。ほんとにどうしたらいいの? もういっそのこと口封じして自殺? 無理無理無理!


 あれやこれや考えているうちに部屋に着いていた。


「その……」


 何から話せばいいのか、そもそも、話してもいいのか、頭と口と心が分離して体が引きちぎれそうだ。


「やっぱりあれ、藤川さんが殺したんだね」


「……」


 殺しているところも見られていたのなら、もう逃げ場はない。最近、仲良くなっていい調子だったのに。


「そう、私がころ――」


 口を塞がれた。


「君の共犯者になりたい」


 彼は私の唇に人差し指を当ててそう言った。


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