空には


 君は今日も寂しげに空を見上げている。教室の隅っこ、窓側の席に目をやると君がいて、僕は彼女に釘付けになる。お互いに黒板はそっちのけ。向く必要を感じないのか、見惚れて動けないのか。おそらくはどちらもだろう。


 俺はいつも孤独な彼女が気になっていた。というより、自分も孤独だからこそ、孤独同士で仲良くなりたいと思っていた。しかし、彼女はこちらと真逆の方を向いてこちらに興味すら示さない。


「はぁ……」


 彼女はため息を吐きながら頬杖をついた。彼女の目には何が映っているのだろう。気になるだけで、とても尋ねることはできない。怖いからだ。


 俺はみんなに無視されている。だから、みんな同様、無視された時のことを考えると気が引ける。


 実際、過去にあったのだ。相当なショックを受けたせいか記憶が曖昧だが、彼女に話かけた数日後、彼女は学校を休んだ。それも長期間。少しの間は彼女の家へ行って様子を見に行った記憶もある。しかし、僕が彼女の家へ行くことをやめて少し経つと、また登校するようになった。


 彼女に嫌われているのだろう。想いは一方通行。どうすればいいのかわからない。一人可憐に咲く高嶺の華。俺が触れることはできないのかもしれないと思っていた。




 延々と続く学校生活が鬱陶しく感じ始め、新しいことも楽しいことも全て無駄に感じる。孤独であることに嫌気がさしてきた。時には精神を病まし、気が狂いそうになったり、自己嫌悪に陥って自傷行為を始めたり。もう、耐えきれなかった。


 授業中であるのにもかかわらず、爆発した想いを叫んだ。


「いつも空ばっかり見てさ、どうして俺のことを見てくれないんだよ!」


 何日も、何ヶ月も、何年も何十年も存在をアピールし続けたのに、一向に振り向いてくれないもどかしさが俺の苛立ちを最高潮にさせた。


 なぜか怒りぎみの口調に後悔したが、もうどうでもよく感じてきた。


「やっと、話かけてくれた」


 彼女はそう言ってこちらへ振り返ると、白い指をこちらへ伸ばし、俺の頬を突く。なのに、俺の頬に指の当たる感覚はしない。


「えっ……?」


「そこまで驚く? 私たち、幽霊なんだよ。思い出した?」


 幽霊? 俺は生前のことを思い出した。




 俺と彼女はお互いに孤独であることもあり、いつのまにか仲良くなっていた。仲良くなった直後、彼女は病気で学校に来れなくなった。俺は毎日のように見舞いへ行ったが、彼女は病死した。それから俺は彼女の後を追うように自殺したのだ。




 みんなが無視する理由も、永遠のように続く学校生活も、彼女の指が俺の体をすり抜けるのも俺が幽霊であるせいだ。


「寂しかったんだから。ずっと……」


「ごめん」


「今度こそ、一人にさせないでね」


 悲しげな表情を見せつけるのだから卑怯である。俺は頷いて、わかったと答える。すると彼女は嬉しそうに笑い、窓から身を乗り出した。それでも授業は続く。


 彼女を追うために俺も窓から飛び出した。幽霊のくせに重力に逆らえない体は地面に吸い込まれるようだ。青く澄んだ空には彼女と向かうであろう、新しい世界が見えたような気がした。

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