第124話

ざわざわと、再度のざわめき。


「これはまさか…どこかの国からの侵略行為と言うことか?」


会議室にいた誰かが呟き。


このタイミングでの避難民への強襲だ。そう考えるのが自然だと誰もが考え、口々にさまざまな推量を話し出す。


「となると考えられるのはどこの国だ?」

「いや、どこの国であれ、あんな生物を作り出すことが出来るだろうか?

侵略行為とたまたま重なっただけと言う可能性は?」

「このタイミングだぞ?そんなことはあり得んだろう」

「だが、ゼロではない」

「そんなことはどうでもよい。どこの国が攻めてこようとすでに何かが攻めてきていると言う事実に変わりはない。

それらの敵対勢力の詳細より、それらへの対応を考えねば」

「その対応を考えるためにも詳細が分かるに越したことはないであろう?

相手が分かれば交渉でどうにかなる目もある」

「馬鹿なことを。宣戦布告もなしに攻め込んでくる勢力だ。そんな目は出ないどころか、そもそも存在しないだろう」

「馬鹿は貴殿だろう?初めから無いと決めつけることの愚考ぶり。今回の相手は分からぬことばかり。何もかもが不明な今、初めから決めつけて得られたかもしれないより良い道への模索すらしない。無知蒙昧、馬鹿の極みだな」

「ハハハ。戦場も知らぬ愚図の割に言うではないか。戦場では刻一刻と状況が変わる。良い賽の目が出るまで振り直す時間すら無い。良い目が出る、と言う可能性に縋っている暇は隙となり、命取りとなり得る。であれば、初めからそれを当てにして動くなど愚の骨頂。賢しらに振る舞う愚物の言など、参考にすらならんな」

「ハハハ、ハハハハハハッ…ぶち殺してやろう。表に出ろ」

「上等である。たかだか文官風情が元軍人に喧嘩を売るなど、正気を疑う」

「ハッ。だるんだるんの二重顎とブニブニの腹回りのデブ風情が、よく言う。私も喧嘩を売る相手は選ぶとも。つまり、貴殿のような二足歩行ができるだけのブタもどきなら私のような文官風情でも十分だと言うことさ」

「おい、喧嘩してる場合じゃないだろう。ここは対策を考える場だぞ」

「とは言え、対策と言ってもどうする?s025車両の障壁すら軽々とぶち抜く火力を前にしたら何もできないぞ?」

「s025…障壁展開車両はその型番が最新型だったか?より強力な改良型は開発されていなかったか?」

「あるにはある。が、まだ開発段階であり、試験運用すらままならん。それに現在の技術でコストパフォーマンスを考えた上での最高性能を持つ最新型がs025だ。

コストパフォーマンスを度外視するならば、過去に開発されたモデルの中には現行モデルよりも障壁出力の高い機体もあったが、そんなものとうの昔に廃棄済みだ」

「それを作り直して配備すると言うのは?」

「厳しいな。それらを生産する工場の建設、ないしは既存の工場の改築からしなくてはならない。

そこからさらに生産、配備となると十分な数を揃えるのに一年は欲しいが、敵戦力を鑑みるに、そんな時間はないな」

「そもそも戦闘データを見るに出力増強モデルでも防ぐことは難しい。作ったところで意味がないんじゃないか?」

「であれば、やはり攻撃あるのみと言うことだな?まあ、やられる前にやると言うのは良い。だが、こちらの射程距離に入る前に敵にやられるぞ?黒竜のドラゴンブレスを見ただろう?奴の射程の方が遥かに長い」

「いや、だが接近できていた場面もあったぞ?あれはどう言うことだ?」

「そういえばそうだな。何らかの理由があるはずだが…その理由を再現できれば接近できるのか?」

「撃てる回数に限りがあると言うが1番それらしいとは思うが、それにしてはバカスカ撃っていたように…いや、もしも今回の避難民を襲ったと言う連中と協力関係にあるとしたら、まとめて吹き飛ばさないようにしたからと考えられる」

「…確かに。今得られる情報からは、そう考えるのが自然か。避難民の生き残りからの聴取が進めば…」


ピタリ。


「…静まれ」


ずっと口を開かなかったサドラン皇帝が一言。

それだけで、会議室は静寂に包まれた。

意志の強い瞳を爛々とさせながら


「最早、現有戦力で我々に為すすべなし。となれば前線の兵には遅延行動に務めるように指示。倒せなくても良い。

住民を避難させる時間を稼げ」


サドラン皇帝のその言葉を聞き、会議室の誰もが絶句する。

それすなわち、いきなりの負けを認めたようなものだからだ。

今の段階でそれはさすがに早すぎた。

会議室の誰もがそう思った。


「サドラン様っ!お考え直しください!!戦う事を諦めては…」


始めに反対の意を唱えたのは軍部の人間。

サドランはこれを切って捨てた。


「防御、攻撃ともに敵の方が上手だ。都合良くそれを上回る兵器を作れるはずもなし。抵抗は無意味ということよ。時間の無駄だ」

「…しかし、だからといって…」

「避難民は出来る限り、最北端の都市へ。避難民用の住居施設の建設を急げ」

「それですと防衛施設の増設に手が回りませんが…」

「防衛施設は一切作らなくて良い」

「なんと!?」

「作ってどうなる?住民ごと消しとばされて仕舞いよ。であれば作る意味がない。それよりも最北端ともなれば寒さが厳しい。しっかりした住居でなければ凍え死ぬ」

「いくら施設を作ろうと限界があります!最北端の都市群だけで全ての避難民を受け入れられるとはとても思えません!」

「うむ。ゆえに避難民は他国へも送る」


その言葉に意を唱えたのは外交官の1人。


「何をおっしゃっているのですか!今の情勢で受け入れられる筈がありません!!」


地球とは比にならないレベルで人が殖えすぎたこの世界では常に食糧が枯渇気味である。

他国に輸出できるくらいに余裕ある国は農業国家であるプラベリアくらいなもの。

他国からの難民の受け入れなどまずあり得ない。

しかし、この意見もサドラン皇帝は切って捨てた。


「手土産として我が国の技術の全て、さらには技術者も添えて送りだす。であればそれなりには受け入れてもらえるだろう」

「な、なにを…何を言っているのですか!?」

「思い出せ。今回のような未だ発見されなかった未知の生物に攻め込まれた話はすでに聞いたことがあっただろう?

先にあった巨大な蛾や巨大キノコではなくとも、だ」

「はい?そんな報告は諜報部から…いや、近い時期に他国にも未発見の生物に襲われていたという報告は…まさか」

「決めつけは危険ではある。あるが…余はそれらを無関係であるとは考えておらぬ」

「それがどう繋がるのですか!?軍事技術を他国に広めてしまえば、それが我々に向かわないとはっ」

「その心配も生き残ってこそのものだ。そんなことを言っている場合ではない。複数の国が手を取り合い、一丸となって対抗せねばならぬ何かが起きているのだと余は考えておるのだ」

「むぅ…ですが、そのサドラン様の高貴なお考えを他国も理解できるとは…いや、しかし…」

「いや、おそらく余と同じ考えを持つものは一定数いるはずだ。むしろそうと考えなくては不自然なのだから」


その後も様々な反対意見は出るものの、それらもまた全て切って捨てていくサドラン皇帝。

皆もわかってはいるのだ。

サドラン皇帝の言葉が正しいことは。

だからこそ何も言えなくなっていき、会議室の空気はひたすらに重くなるばかり。

全ての意見が出尽くしたところでサドラン皇帝は今日1番の爆弾発言を行う。


「とは言え無抵抗でやられるつもりは毛頭ない。

最北端の都市群の民衆には後がなくなるのだから。ゆえに最終防衛ラインを、ここサドランとする。

そして余が自ら迎え討とう」



と。


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