第86話

「天使だ」

「は?」


上の空のフォルフォー少年を引きずりながら迷宮に向かっている矢先、急に口を開いたと思えば、改めてこいつは阿呆だなとルービィ少年は再認識した。


「俺をキモがらない女子なんて初めてだ」

「そりゃね。挙動不審に吃りまくってたら普通の女子ならキモいと思うだろうさ。初対面なら尚更」


フォルフォー少年は決して不細工ではないし、性格も悪くは無いが、いかんせん女子と話すときに異様なまでに挙動不審になるのがネックとなり、未だに彼女はおろか女友達すら出来なかった。

言葉はもちろん、動きも挙動不審なのだ。

友達になる前の段階、初対面の段階であまりの醜態を晒すために、第一印象がだいぶ悪く映るのである。

そして、フォルフォー少年は不細工ではない、性格が悪くない、というだけで、イケメンであるとか、性格が特別良いわけでは無い。

悲しいことに挙動不審気味の彼の行動に目を瞑ってまで仲良くなりたいとは思われない。

だからこそ、彼は今まで女友達すら出来なかった。

しかし、今日この日。

そんな悲しきフォルフォー少年の過去を吹き飛ばす大事件が起こった。

キョドる彼を不気味がるどころか、嗤わずにに、おかしな人とばかりに花咲く笑顔で笑う受付嬢に出会って彼は思った。

受付嬢はマジ天使。と。


「なんなら彼女は女神の生まれ変わりに違いない」

「天使か女神かどっちなのさ?」

「どっちもだ!!」

「あ、そう。ついとばかりに聞いたけれど、心底どうでも良いね。ほら、ちゃんと自分で歩いてよ」


フォルフォー少年が突飛なことを言うのに慣れっ子なルービィ少年は特に気にせず、迷宮へと引っ張っていく。

なんならフォルフォー少年の言うところの天使みたいな女性やら、女神の生まれ変わりとやらに会って、フォルフォー少年がこうなるのは初めてでは無い。

今回の受付嬢並みに気にしない態度を見せた女性は初めてだが、世の中には色々な人間がいるわけで。

故郷では挙動不審キングの名で知られていたフォルフォー少年に嫌な目を向けないウブな子ね、とばかりに接してくれる女性だっていたのだ。

その度にいきなり告白して、玉砕していたのだから手に負えない。

そんなことよりも、ルービィ少年としては少しでも早く迷宮に入って不思議なアイテムを手にいれ、今日の宿代を稼ぎたいところ。

どこぞのアホのせいで殆ど無一文なのだ。

もし、迷宮で価値あるアイテムが手に入らなかったらとは考えたく無い。


「なあ、ルービィ。彼女と結婚するにはどうしたら良いと思う?」

「…何度も言ってきたことだけれど、まず結婚しようとしてるところがダメなんだって。昨日今日にあった相手と結婚したいなんて言っても間に受けてもらえないよ。そんなことより、受付で聞いた迷宮は…ここだね」


2人の目の前には仰々しい門がある。

後から人の手によって建設された、それは様様な役割を持っていたが、そのうちの一つである不審者や犯罪者を中に入れないための機能を果たしているようで、門は固く閉じられていた。


迷宮ギルドで発行してもらった許可証を読み込ませることで開くようになっているのだ。


「なぁなぁ、どうしたら結婚できると思う?プレゼントでも用意すれば良いかな?宝石なんてどうだろう?迷宮で手に入るって言う凄いアイテムを売ってさっ!一攫千金、嫁さんゲットみたいな!!」

「だからいきなり結婚しようとするなってば。順序だてて、知り合いから友人、恋人にって婚約する…一からの関係性を構築するところか始めないと、宝石なんて受け取ってもらえないよ。見ず知らずの人から高価なものを貰っても怖いだけ…じゃなくて、切り替えろよ。もう、迷宮に入るよ!」

「おっしゃぁあああぁっ!!俄然やる気が出てきたぜ!!」

「そもそも、挙動不審になるのを直さないと、とてもじゃないけど結婚なんて無理に決まってる。挙動不審の君じゃあ、どんな聖人じみた性格の人でも、せいぜい知人くらいの関係性が精一杯だろうに」

「フハハハハはははハハハハッ!!」

「聞いてないし。って馬鹿っ、1人で突っ走るなよっ!!危ない所なんだぞ!?」


2人が門から入ると巨大な穴が姿を現す。

大きな機械から伸びる紐のようなものが壁沿いに幾つか奥に続いているようだ。

ゲームやアニメなどに登場する洞窟は、見えないとゲームにならない、キャラが何をしているか分からないと言う大人の事情から明るいことが大半であるが、実際には真っ暗なのが普通である。

迷宮ギルドの職員によって設置された機械は、洞窟内部を照らすライトの動力源であった。

そこから伸びる紐は電気を流すためのコードである。

迷宮内は非常に入り組んでおり、行き止まりだった道が次の日に行ける様になったりしているため、洞窟内部を完全に照らせるわけでは無いが、基本的にこのコードを辿れば未発見地帯に繋がるという、道標みたいなものとして機能していた。







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