第50話

「スターク、どう思う?」

「分かりきったことを聞くなよ。特大のヤバい案件だ。あいつらは何なんだ?」

「さすがのジェイク様でも分からないことくらい沢山あらぁ。俺に聞いたところでそれに対する答えは持ち合わせてねぇよ」

「…まあ、だよな。とりあえず戻るか?」

「これは依頼失敗になるのかねぇ?」

「さてな。しかし、奴らとは接触したくない。あまりにも不自然過ぎて恐ろしさすら感じるぜ」


孤児院を遠方から見つめる視線は大人の男の二人組。

大人は聖女達しかいないはずのアルファニカ跡地において、彼ら二人は別の大都市から派遣された討滅ギルドの人間である。

討滅ギルドとはこの人口過多の世界にて発生する山賊達の討滅を目的とする民間組織で、山賊の討滅以外にも雑多な仕事をすることもある。


ある日のこと。彼らのギルドに突然の凶報が届いた。

大量の死体を引き連れた巨大な肉塊が次々と大都市を侵攻していると言う。

ユミール公国はこれを確認した当初、あまり深刻には捉えなかった。

しかし、一月、二月と経過するごとにその被害は馬鹿にできないものとなっていく。

彼らによって仮称、ゾンビキングと名付けられた魔王ゾンビとその手下のゾンビ達はひたすらに真っ直ぐ西へと突き進み、道中にある村や大都市を侵攻。死体をもとにさらに手下を増やしてさらに侵攻と、進撃を続けていた。

この調子でいけば約2年後にはユミール公国の首都に到達すると言われるほどに。

不幸中の幸いは地球よりも陸地の割合が多い上に惑星そのものが50倍の面積を持っていたがために、国自体がかなり広いことであった。

7大国のうち陸地に居を構える5つの国の中で1番面積の狭いユミール公国ですら首都に到達するまでの距離はかなりのもので、道中で人間を見かければ必ず襲いかかると言うゾンビキングの習性、と言うよりエルルの命令も相まってユミール公国の中枢部にたどり着くまでに最低でも2年はかかると言う計算であった。


その猶予を持ってユミール公国は民間組織である討滅ギルドに魔王ゾンビの調査を命じた。

彼らは魔王ゾンビとまともにやり合っても勝てない、ないしは勝てても被害が大きすぎると判断したためである。

その調査対象としてまず真っ先に挙がったのが、『子供』であった。


魔王ゾンビに襲われたと言っても、いかんせんこの世界には地球の比ではないほどの人が大量にいる。

流石の魔王ゾンビとて、1人残らず確実に殲滅するのは難しい。

もとい、ユミール公国は魔王ゾンビの侵攻から辛くも逃げ延びた生き残りから魔王ゾンビについて奇妙な行動が見られたと言う証言が多数寄せられた。


子供を襲わない。


と言う証言である。

当初、明らかに化け物然とした怪物がわざわざ子供を避けるものかな?とユミール公国上層部はあまり気にしていなかった。

たまたま見逃しただけだろうと。

しかし、生き残りの殆どからその証言が出たとなれば別である。


生き残り達は逃げ出すので精一杯で、魔王ゾンビが始めてアルファニカで確認、交戦されたことで得た情報以上の目新しい情報は得られなかった。

しかし、今も壊滅した都市にいる子供達ならばより詳しい魔王ゾンビの生態を知っているのでは?と考え、ユミール公国上層部は民間組織である討滅ギルドに依頼した。


壊滅した都市から子供を保護して、できればゾンビキングに対する情報を少しでも引き出してもらいたい、と。


とはいえユミール公国はそこまで期待していない。

どうせなら魔王ゾンビに関する痕跡などを回収して、それらを研究する方がよほど有意義だと考え、そちらも依頼した。

つまり、討滅ギルドには国からの2種類の重要依頼が発行されており、ここにいるスタークと呼ばれた男とジェイクと名乗った男は子供達の保護という討滅ギルドの依頼を受けて、ここに居たのである。


しかし、彼ら2人が見たのは見たことのない服飾の女性達が子供達を保護、それどころか教育までしているではないか。

さらにはその誰もが常軌を逸した美女、ないしは美少女でありもれなく巨乳。

得体の知れない怪物が壊滅した都市跡でそんなことする美人集団。

異様にも程がある。

スタークもジェイクも人並み以上の性欲を持つゆえ女遊びが大好きであったが、そんな彼らですら彼女達相手には不気味過ぎてその気になれない。


はっきり言って仕事を受けたことすら失敗だったと後悔するほどだ。



「階級落ちないかねぇ?」

「ジェイクはリーフだっけか?まあ、大丈夫じゃないか?」


討滅ギルドでは大まかに3つの階級に分かれていて、下から順にシード、リーフ、フラワーの3種類。

シードは初心者がなるもので中堅あたりからはリーフ階級となる。

スタークは上級者よりの中級者階級であるリーフ。

ジェイクもリーフであった。


「この異様な集団の報告だけでもいくらか報酬は貰えそうだし、あまり気にしなくていいだろうよ」

「…直接、話をしてみるってぇのは?」

「冗談か?よしてくれよジェイク。今はそんな気分じゃないぜ?

リーフ階級は飾りかよ?」

「分かってるさ。無茶無謀をやらかし、芽吹かせ、初心者シードって歳じゃないし、上級者フラワーって言えるほどの習熟してもいないしな…けど、奴らはぜってぇ無関係じゃないぜ?報酬がたんまり貰えるかもしれないと考えちまうと…」

「リスクの取り時を間違えるなよ。絶対、こいつはリーフじゃ手に余る。フラワー案件だ。ここ数日の偵察で十分過ぎるだろう?とにかくズラかる…っおい?まじか?まさか…」

「ん?どうし…っち。すぐ動くぞっ!!」

「なんで気付かれたんだよ!?数キロ離れた場所からの望遠鑑査だぞ!?」


彼らはアルファニカ後から数キロ離れた場所から双眼鏡のようなもので聖女達を観察していた。

初めは魔王ゾンビの手下が残っているかもと警戒し、より遠くから見ていたが徐々に近づいて今日は今までで1番近い位置で孤児院を確認していた。


しかし、彼らの持つ双眼鏡越しに聖女と目が合った。


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