第10話

そんなこんなで、南下するように言った芝犬もどきは今頃どうしているかなとか、トマトはまだかなとか、今日もヨトウムシがいるのを見てゼルエルちゃんに頑張って貰ったり、至極穏やかな日々を過ごしていた時のこと。


急報が我が家に届いた。


猟師の一団が事故に遭い、大怪我をしたらしいという報せである。

それを聞いて思ったのはこれから食卓の品数が一品減りそうだということだ。

僕のいる辺境は、辺境の割にはお金を持っている農家が多い。

具体的には下手な貴族よりお金を持っていたりする。

何故なら、地球の比ではないほどに人口の多いこの世界では至る所で食料が足りていない。誰もが必ず必要とする食べ物は誰もが欲しがる。

食料が足りないので、特に美味しく栄養価の高い食料は腹の満たせない宝石などより価値があることもざら。

結果的に野菜の一大生産地であるここは常に野菜が完売し、その単価も地球より格段に割高で売れるというウハウハ状態。

世はまさに一次生産者一強時代。

ただ、流石に野菜だけでは厳しい。

そんな辺境の村人達が猟をするのは当然の流れで、代々、猟師をしてきた家の人達が集団で月に1度、狩りに出かける。

そして、狩ってきた獲物は食卓の彩りに加えられるという寸法だ。


その一団が帰ってこないとなると、これは困ったぞ。

今月はトマトがあるから良いが、来月、再来月と続くのは流石にイヤだ。野菜一辺倒、タンパク質は野菜に付く害虫たちのみなんてのは勘弁してもらいたい。

ああ、念のため言っておくと家畜はいないの?と気になった人もいるかもしれない。

地球でも言われているが実は家畜は効率が良くないとされており、当然ながら食料の少ないこの世界で家畜なんて育成するわけがない。極々一部では畜産をやっているところもあるらしいが、それは王族用とからしく、王族だけが食べる分程度の少量であれば多少は非効率でもいいやということだろう。

ちなみに狩猟で獲れる獲物はハリネズミっぽい生き物がほとんどで、他の食べられそうな動物類はすでに狩り尽くされて絶滅しているか、非常に強い毒があるか、警戒心がイヤに強くて捕まえにくかったりと滅多に見られない。

このハリネズミもどきはかなり森の深くまで行かないと生息していないらしいのだが、表皮を覆う針が非常に硬い上に、捕食しようとする天敵に対して非常に刺さりやすい形状をしている。

しかも彼らの唾液には激痛を感じる刺激毒だかが含まれているらしく、ハリネズミもどき達は定期的にその唾液を自分の体に生えている針に塗ったくっているのだとか。

襲おうとして、針が刺さった天敵はその毒にやられて2度と襲わないらしい。

つまり、ハリネズミもどき達は天敵に襲われにくいために数が多く、襲われにくいために警戒心も薄いどころか逃げだすこともしないそうで人間が慣れない森で狙うにはうってつけなのだろう。

さらにそこそこの大きさで可食部位も多く、食味もいいのだから食べない理由がない。

僕を含め辺境で嫌いな人はいない食べ物のうちの一つだ。


それが食べられないだと?

むむむ、これは由々しき事態ですぞ?

こうなれば、致し方なし。

いっそのこと魔王クリエイターで家畜用の生物を用意でもしようかと考えるが、どっからそんな生き物を見つけてきたと食料の足りないこの世界では色々な意味で目立ちすぎる。とりあえず、偵察用の魔王でも創って、助けられそうならばそれとなくお助けせねば。

ついでにサドラン帝国の残された子供達の様子も見に行かせよう。


して、創ったのがこちら。


名前 魔王蝶々

生物強度 59

スキル 超構造色 超無臭 超無音 単為生殖 食性変化 視覚交信 擬似人視力ぎじひとしりょく


なんかやたらと生物強度が上がってしまった。

生物強度が上がると単純な身体能力もあがるが、これは身体能力に紐づいているのではなくスキルの生存特化系の超シリーズによって、がアップしたことによるものだね。

そして生き残り安さがアップすることで生物強度が上がり、結果的に身体能力が上がったと見るべきだな。

そもそも生物強度は勝手に変動する項目で、魔王クリエイターの力では弄れないのだ。

まあ、上がったところでサイズは弄っていないし、ベースが蝶に過ぎないのであまり意味はない。

大体分かると思うが今回は分かりづらいスキルがあるため、一応解説する。

まず目を引くのが超構造色というスキル。これはSFに登場するステルス機能を再現したものだ。

構造色という言葉が地球にもあるが、これは物の色の映り方の種類を表した言葉で、光の反射を上手くやることで色が付いているように見える構造のことを言う。

体の色素が見えているのではなく、鏡のように太陽光に含まれる一部の光を反射して色がついているように見せかけているのだとか。そのため光を吸収する物質に浸すと色が無くなるらしい。

有名な古い寺の装飾に使われていたりするタマムシという虫の羽などがそういう性質を持っているらしく、虹色に輝いて見えるのは見る角度によって、光の反射具合が異なるからだそうな。

それをヒントに作り出したのがこの超構造色。

周囲の光を良い感じに反射して周囲の景色に溶け込むというスキルだ。

超無臭はせっかく見えないのに、匂いでバレたら片手落ちだから付けた。

超無音も同じ理由だ。

まあ、元が蝶なので音も匂いも問題ないとは思うのだが。

単為生殖はメスだけで殖えることができる繁殖形態のことで、普通は雌雄が揃っていないと殖えない蝶なのだが、体を隠すスキルを複数つけたせいか同種同士ですらお互いが認識できずに殖えることが出来なさそうだったために追加。

食性変化は空気中の魔力を餌とするようにし、視覚交信は彼女達が視認した風景を僕も見られるようにしたスキルとなる。

擬似人視力は視覚交信を使っても、昆虫の持つ複眼では人間とは見え方が違いすぎるために、人と同じ視力、色調で見られるようにとさらに追加した。

そして、今回はさらに魔王を創った。

魔王蝶々だけでは現状確認しか出来ないことに気付いたからね。


名前 魔王ゾウムシ

生物強度 23

スキル 超寿命 超外骨格 超魔力皮膜 膂力増強 巨大化 食性変化 一代全霊


畑の隅っこでひっくり返って死にかけていたゾウムシを使ってみた。お馴染みのスキル達に魔王ゾウムシには繁殖を完全に度外視して、この一個体の強化に注力した。

最後の一代全霊は初めから子孫を残せないようにするかわり、その分身体能力を上げるスキルとなる。

だいぶ戦闘力は高い筈だがそれでも生物強度は23までしか上がらないのは子孫を残せないというのがネックになっていそうだ。もしくは死にかけていたから一代全霊のスキルの効果が不十分である可能性も大。

なんにせよ生物強度によるパワーアップはあまり期待できそうにない。

まあ、今回の偵察と救助くらいは大丈夫なはず。

救助の際に魔王ゾウムシの姿が見られるのは気にしない。

どうせ僕が創ったとはバレないだろうし、魔王ゾウムシは魔王蝶々の一部と一緒にそのまま西に向かわせればいい。


「では、いってらっしゃい」


僕の挨拶に彼らは何も答えずそのまま森のある西へと向かっていった。

成果を期待しているぞ、救助隊よ!


結論から言えば成果は得られず、普通に漁師の一団は帰ってきた。

一部の人は怪我が原因で死んだと聞いたが、死んだ人には申し訳ないが、僕が仲良くしていた猟師の人達は無事だったので不幸中の幸いではあった。

とは言え愉快なわけではなく、少し気落ちしていたところ驚きの話を母から聞かされた。

死んだのは1人。

それはリアちゃんの父親だったのだ。


な、なんだってーっ!?


あまり良い父親ではなかったようだが、一応リアちゃんの様子を見に行こうとした矢先、立て続けに急報が届く。


リアちゃんの母、レムザの行方が分からなくなったという報せが。


いよいよ心配になってきた僕は一刻も早く、リアちゃんの家に向かうことにしたのである。

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