Ⅰ章 予兆
第2話
さて、人類を間引けと言われても当然ながら普通の人間には不可能。
ゆえに、声の主は力を与えると言った。
いっそのこと声の主がやれば良いのではないかと尋ねたが、その返答は否定。
彼曰く、自身では力が強すぎて全滅させるか何もしないかの2択しかないという。
なるほど、彼と人類との差は人間にとっての細菌レベルだと言うことが分かった。
結果貰った力は、自由に生き物を弄くるガチめの神様っぽい力。
より厳密に言えば生き物というより、その生き物を作るための材料やらが有ればその場で新たな命を作れると言う。
この力で人間を殺して回るような人類にとっての天敵を生み出せと言うことですね、分かります。
神と言うより魔王的な力に近いかも。
そしてそんな僕の力は今、どうなっているかと言うと…
「にっくきヨトウムシを絶滅させるのだ!ゼルエルよ!」
なんてことを叫ぶ僕は辺境の農家の一人息子として、生を受けた。
僕が生まれた世界というか惑星は地球の約50倍の表面積を持ち、海と陸の割合も地球より陸地が大分多い。
そしてそれでありながら、現在のこの惑星は国やら人やらが多すぎる。
なんと驚くことに地中国家、深海国家、空中国家と本来なら存在出来ないような場所にまで人類が進出、環境が破壊されまくっている。地球よりも広い世界でありながら、そんなあからさまに過酷そうなところまで住まざるを得ないほどに人が増えているのであろう。
土地をめぐっての戦争なんて日常茶飯事で、朝の天気予報ばりの気楽さで朝刊の隅っこにどこそこが戦って、勝っただの負けただのが記載されていたりするもんだから世も末も極まりである。
そんな世界で、僕は農業国家として様々な国々に威を持つプラベリアという国の辺境に生まれた。
もちろん、人類の間引きを罰として依頼されるほどに人類の数が飽和している以上、辺境であれども人口密度は低いわけではないが、まあ比較的のどかで、人口密度に余裕がある場所に生まれたと思う。
それもこのプラベリアという国の特色が関係している。
先も言ったとおり、プラベリアは農業国家である。
すなわち食料の一大生産地なのだ。
この国で作られた野菜や果物、穀物や、それらの加工品は世界各国の沢山の人類に輸出される。
つまり、プラベリアはそれらの国々の文字通りの生命線なのだ。
どっかがプラベリアに対して戦争を仕掛けたとしよう。
当然、周りの国々も黙って見てはいない。
なにせ、自国の食べ物を作出する工場みたいな物だ。どこかの国に攻め滅ぼされてしまうとただでさえ人が飽和しつつあって食料の確保が大変なのにその供給が得られない。ないしは攻め滅ぼした国が食料の値上げやらをするかもしれない。戦争で畑が使えなくなるかもしれない。そして、それらの様々な懸念を考えるプラベリアから輸出を受けている沢山の国々の様々な思惑。
つまり、プラベリアはどこの国にとってもなくてはならない存在で、だからといって攻め入り我物にしようとしてもプラベリアから輸出を受けている国々全てを敵に回すことを考えると、下手に敵対は出来ない。
ゆえにプラベリアは戦争が頻発するこの世界にて一番平和な国とのことだ。
そんな国で農家の一人息子として生まれた僕がやっていることと言えば当然ながら農作業である。
今、やっているのは魔王クリエイターと名付けた声の主から貰った力で改造したカマキリを用いた、畑の害虫駆除である。
ゼルエルと名付けたペット兼生物農薬であるメスの地球でいうところのマオウカマキリっぽい見た目の彼女は、今日も畑にいる害虫ヨトウムシを捕食しまくりである。
知らない人のために一応解説しておくとヨトウムシとは夜の間に葉っぱを食べて、朝になると食害した葉っぱの根本付近に潜って天敵である鳥類などをやり過ごす生態を持つ、蛾の幼虫である。
漢字で書くと夜盗虫と書き、夜の間に盗むように根こそぎ葉っぱを食べまくることからその名が付いたそうな。
そのヨトウムシを早朝の日が登るかどうかの時間帯にカマキリを放して、潜る前に捕食させるのが最近の日課である。
そして、何故こんなことをしているかというと貰った力の把握がてら憎きヨトウムシを駆除してやろうと思い立ったからだ。
まず魔王クリエイターという力を貰って僕が真っ先にしたのは自身の強化である。
生物を対象にできる力なのだからそれは自身においても対象外とはならない。
そうして魔王クリエイターを使う上で、分かったことが沢山出てきた。
まず、魔王クリエイターで無限に強化し続ける、ということはできないこと。
そして、そもそもが生物も対象にできるという力ではあるが厳密には人類の天敵を生み出すという力であるために、別にその辺の土やらを始めとした生き物以外を元に作り出せること。
他、様々なことが分かったが差し当たりこの二点だけが分かっていれば問題はない。
その2点を踏まえて創り出された試作がこのヨトウムシ絶対捕食するウーマンマオウカマキリ、ゼルエルちゃんである。
大きさは約30センチ。小型犬であるチワワより大きい、化け物サイズ。おそらくカマキリ愛好家が見たら大興奮間違いなしのビッグカマキリであるが、彼女に対して魔王クリエイターを使って弄った項目は、単純な身体能力がまず。
その能力たるや鎌状の前足で鉄板を引き裂くことができるし、ジャンプすれば二階建て一軒家の屋根を飛び越え、本来悪いはずの視力はキロ単位先のネズミすら見つけると言われるハヤブサよりも良い。
そして忘れてはならないのが知能。
比較的原始的な神経構造をしている昆虫は賢いというよりは遺伝子に刻まれた行動指針に従って動いている傾向が強い。
もとい、知能面では良くできたロボットみたいな感覚であるが、僕の言葉を理解しある程度の喜怒哀楽すら合わせ持つようになった彼女は犬感覚の完璧なペット的カマキリ、いや究極のペットカマキリになったのだ。
知能が高いがためにピンポイントにヨトウムシを夜から早朝にかけてまで捕食してくれるのが超グッド。
さらにさらに忘れてはならないのが寿命である。
基本的にカマキリは卵から成虫になるまでを1年で終える昆虫だ。
これは日本のカマキリのみならず海外のカマキリも、大体長生きはしないと言われている。
これを魔王クリエイターで普通の人間並みの寿命にしてやった。
そう、改めて言うが、このゼルエルちゃんこそ究極のペットカマキリである。
そして、そんな試作が終われば当然、魔王クリエイターによる人類の天敵、もとい魔王と名付けた化け物達の量産に入る。
もちろん、間接的にとは言え人を殺すのは嫌である。こちとら一般家庭で育った純日本人だ。人殺しを是とする教育なんざ受けた覚えがあるはずもなし。
嫌に決まっているではないか。なんならこのまま何もせずに一生を終えても良いのではないかと思ったほど。
が、そうもいかない理由がある。
魔王クリエイターの力を使うと虚空にパソコンの画面見たいのが出現して、そこから色々な操作をするのだが、転生して8年。8歳になって初めて気づいたのだがこの画面の右上に気になる表示があった。
いや、気になるというかモロに気にしなくちゃいけない表示だ。
そこにはこう書かれていた。
『残り寿命24日』と。
わぉ。
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