第7話 死霊の支配者
突然の複数体のスケルトンの出現に盗賊団たちは慌てふためいていた。
「ど、どこから来やがった! テメエら!」
「ひいいっ! オレは逃げるぞ」
怯える者。尻尾を撒いて逃げる者。
そんな奴らなどお構いなしにスケルトンの兵士たちは、斬りかかっていく。
「オイオイ、しっかりしてくれよ。そいつらは俺が創った中じゃ、一番弱い部類だぜ。あっさりやられんなよ」
最弱のスケルトンたちに次々とやられていく盗賊団の姿にリオンは若干イライラした様子を見せながら声を上げていた。
「お前ら、遠慮せずに徹底的にやれ。……スカル・ナイトはそこで待機だ。まだ隠れている仲間がいるかもしれねえんだから油断せず、撃退しろ」
召喚したスケルトンたちに指示を送りながらリオンはというと、腕組みしながら戦況を静観していた。
「ハア……ハア……よ……よくも……やってくれたな。かわいい部下たちを……」
それから数分後、盗賊団の連中を一通り倒した後、一人の男がリオンの前に現れた。
「へえ……さすがはチンピラどものボスだな。やっぱりそいつらじゃ、相手にならないか」
スケルトンの兵士たちを倒してやってきたのは、盗賊団の頭目だった。
平気そうな態度を装っているが、息遣いからして体力の限界のように見える。
「まさか、こんなガキ一人にやられるとはな……。だが、ここで終わりだ。覚悟しろ!」
盗賊団の頭目が武器を振り回しながら突進してくる。
それに対してリオンは、涼しい顔をしながらその場に立っていた。
猛進してくる頭目に防御する姿勢を見せないまま立ち尽くしていたが、相手の攻撃が入るほどの距離になると、突然手のひらを頭目に向け、
「《魂縛》」
呪文のようにそう唱えながら開いた手をグッと握りしめる。
「――うっ!?」
すると、頭目の動きが止まり、苦しそうな顔をしながら脂汗を流していた。
「そのまま停止してろ。……しかし、不用心だな。未知の相手と戦うときは用心するのが鉄則だろ」
(な、なんだ!? 声が……)
ここで頭目は、体が動けないだけでなく、声まで出せなくなっていることに気付く。
「……有効範囲が狭いのが難点だったが、バカみたいに近づいてくれたおかげでまんまとかかってくれたな」
魂縛とは死霊術の一つ。
リオンの言う通り射程距離が狭く、対象との距離が近くでないと発動することができない。
しかし、その分効果は強力。対象の魂を縛り付けることで、術者の支配下に置くことができる。
今回の場合は、肉体の停止を命じていたため動きが封じられていたが、その気になれば、相手を意のままに動かすこともできる。
「本当ならここで終わりにさせたいが、その前に一つ聞いておくか。……お前、死霊術についてなにか知っていることはあるか?」
「いいえ、知りません」
(こ、声が勝手に!?)
「……知らないのか。まあ、そんな気がしてたから別にいいけど。……ああ、そうだ。お前はもういいや」
用済みとなった頭目に人差し指を向けると、その指からバチバチと雷が生み出されていく。
「《ライトニング》」
「ガアアアアアアァァッ!」
指先から流れ出た雷撃が頭目に直撃した。
稲光を起こしながら体に雷を浴びせられ、悲痛の声を上げられていた。
雷撃が収まると、頭目は力を失くしたように地面に倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。
「あっけない終わりだったな……。お前ら戻っていいぞ」
その呼びかけに応じるように先ほどまでやられていたスケルトンたちが一斉に起き上がった。
そして再び自分の家に帰るようにリオンの影へと潜っていった。
「さてと……」
一仕事終えた後、リオンは助けた少女のもとへと近寄る。
「大丈夫……でしたか?」
「……ありがとうございます。おかげで助かりました」
「……」
少女の反応を見てリオンはなにやら考え事をし始めていた。
「ど、どうしましたか?」
見かねた少女が声を掛けると、少しばかり不思議そうな顔をしながら少女に質問した。
「随分と冷静だな。人が目の前で死んでいるっていうのに変に怯えたりしないし……こういうのって日常茶飯事なのか?」
少女の様子を見てリオンはそのような疑問を抱いていた。
先ほどの戦闘のときもそうだったが、自分に対して危機を感じたときは恐怖を抱いている様子だったが、それ以外では落ち着いた様子だった。
人が死のうが、斬られていようが、さも当然のように眺めているだけで、恐怖を抱いているようには見えなかった。
「そう見えていたならごめんなさい。そういうのには少しだけ耐性があるだけなので……」
「なるほどね……。俺と一緒ってわけか」
リオンは前世に限らず、森の中で魔物や侵入者が死ぬ場面を何度も見ているため恐怖心などは久しく感じていなかった。
「ところで……その恰好はどうしたんだ? どうみても森の中を移動するような恰好には見えないし、どっかの貴族様か?」
ドレスにヒールが入った靴。
明らかに森の中を歩くのには適していない恰好だった。
「私……祖国を追い出された身なんです……」
「ほう、そりゃあ大変だな」
「……私の名前はアリシア・グランディード。グランディード王国の王女なんです」
ようやくここで助けた少女の素性を知ることができたリオン。
この先、彼女とは長い付き合いになることをリオンはまだ知らない。
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