石垣島旅行その2

「思ったより暑くないね!」


「まあ、今は東京が全国でもかなり暑い方だからなあ」

 石垣島空港に降り立つ俺達兄妹は、ホテルのバス乗り場に移動しながら、照りたつ太陽を見上げる。

 飛行機から見えた石垣島は青い海に囲まれ、俺と妹の気分を盛り上げている。


「うへへへ、まさかお兄ちゃんとまた直ぐに旅行にこれるとは……楽しもうね!」


「結局お兄ちゃんなのな?」

 呼び名をたっくんにしない妹……今回兄妹で旅行って事なのか?


「だって……お兄ちゃん……ううん、いいや、またイライラしちゃうから、あ、あれじゃない? バス」


 妹そう言って無邪気に走る。ピンクミニスカートがヒラヒラと舞う。


「パンツ見えるぞ……」

 一体俺は何を言ったのか? 気になるが、それを話題にすると妹の機嫌が悪くなるので俺からは言わない事にしている。


 自分のバックを担ぎ上げ、ガラガラと妹のカートを引っ張り俺も妹の後を追った。


「お兄ちゃん早く早く!」

 既にバスに乗り込み窓から顔出す妹……。


「ヘイヘイ、荷物くらい持て」

 ただその満面の笑みを見て、俺のテンションも爆上がりする。

 出来るだけそんな素振り見せない様にしているけど。


 この間の妹との1泊旅行、最後はあんな結末だったけど、俺の中でパラダイムシフトが起きていた。


 まさか……あんなに楽しいなんて。

 人生観が180度変わった瞬間だった。

 旅行なんて、家族旅行や修学旅行しか行った事無かった。

 そんなに面白いとも思わなかった。

 常にめんどくさいが付いて回った。


 今もそういう思い無くはない。

 自分で手配して、自分で運転して、飛行機に乗るにしても、空港まで行く、荷物を預ける、チケットをスマホの画面に出す。ゲートでの荷物検査。

 全部めんどくさい……。


 でも、今はそんな事は些細な事と思えるくらいにわくわくしている。

 妹と二人きりの旅行に俺は妹と同じくらい、いや、妹以上にはしゃいでいる。


 出来る限りのなら俺も、わーーーいと叫びたいくらいに。


 でも俺は兄だから、あいつのお兄ちゃんだから、心で踊って、表情は崩さない……それを心がけ、妹にはバレない様に……。


「ふふふ、お兄ちゃん機嫌いいねえ~~楽しそう」


「えええ!」


「隠してもわかるよ~~口元がふにゃふにゃしてるし、小指ピクピクしてるんだもん!」


「まじか」


「私との旅行そんなに楽しみだった?」

 維持の悪そうなニヤケ顔で隣に座る俺を見つめる妹……。

 だから俺は言った。


「すげえ……楽しみ……だった」


「ふえええぇぇ!」


「な、なんだよ!」


「いや、お兄ちゃんが素直だから……」

 真っ赤顔でうつ向く妹。そうだよ、楽しみだったよ、いや、既に楽しくてしょうがないよ!


「しょうがないだろ……楽しいんだから……」

 『フアン』とクラクションを鳴らしてバスがホテ向かって走り出す。

 妹はそのまま顔を上げると窓の外を見始めた。

 俺も妹と一緒に黙って景色を見る。

 南国、この間とは違い本物の南国の町、少し赤茶けた家々、南国特有の木々をボーッと眺めていると、妹は目線を外に向けたまま、そっと俺の手を握って来る。


「……一杯、一杯楽しもうね……お兄ちゃん」

 耳まで真っ赤にした妹は、外を見たまま俺にそう言った。


「うん」

 俺は妹の手を握り返して……そう返事をした。

 

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