03.
夕日。沈んでいく。
資料作成のアルバイトに、資料の内容に関する質問は許されない。
訊かなかった。このまま資料を綴じ続ければ、事件の続報や進展にも出会えるかもしれない。
しかし、あの事件に関するものは、なにひとつなかった。
それでも、ひとつだけ。
「あの人は、生きてる」
そう、信じることにした。
あの人が頭を撃った。だから、あの人は、生きている。ライターは、たまたま違う人がそれを買っただけ。私の、思い過ごし。
そう思い込むことにした。
本当は、このとき、もう分かっていたのかもしれない。
あの人は、この街を護る人だった。そして、街があの人を必要としなくなったから、この街を出ていった。
私にだけ分かるように、私のライターをもらって、私にだけ分かる場所に、置いていった。
そして私は、その資料を見た。
あの人は、もう、いない。
この街の治安は、昔と比べて格段によくなっている。それは、警察の資料を綴じていて、いやというほど、分かっていた。
分かっていたけど。
あの人がいないという事実を、受け止めきれないまま、夕日だけが沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます