night , close & ......
night , close & ......
生きてきた。ここまで。長かった。
むかし、夢に見た。たぶん、三十才ぐらいだと思っていたあの夜。
「もっと若かったな」
まだ二十をちょっといった程度だったが、まちがいなく、この夜。
「小学生の頃は」
身長が伸びきるとぜんぶ大人に見えるし。仕方ないか。
「今日で私は終わり」
しぬわけではない。ただ単純に、何かを失うだけ。その喪失は、死ぬことそのものよりも大きく、深い。
失うものがなんなのか、結局、言葉にはできなかった。
「文才がなぁ」
文才がなかった。
たまたま、立体的なものを描いたり何かの方向を定めたりするのが上手かったので、設計技師の真似事をやってきた。
もし、文才があったら。この失うものに名前をつけてあげられたら、何かが、変わっただろうか。
少しずつ、失われていく。
同時に、感覚も鋭くなっていく。
失う直前に、より一層研ぎ澄まされる、幻想。
「さようなら、私」
ゆっくり、研ぎ澄まされたものが、薄れていく。薄い線をぼかして風景に溶け込ませるように。消えていく。
何も、なくなった。
目を閉じる。
もういちど、あの幻想を探す。
何も、なかった。
「おはよう。私」
失っても、続いていく私。だから、新しく始めなければいけない。
幻想。まだ続いている。
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