第49話 スキルマスター
地面に叩きつけた革袋が弾け、その飛沫を戦士(仮)二人とパラディンの足元を濡らす。
だがおさげ女子にだけは、咄嗟に回避されてしまった。
強烈な回避能力だ。
まあいい。
一網打尽とはいかなかったが、3人一気に行けたのなら十分だろう。
「ぐ……うぅ……」
「てめぇ……何を……しやがった……」
永久コンボの影響で、動きの止まった3人が苦し気に呻く。
まさか水飛沫でスキルが発動するとは思っていなかったのだろう。
彼らは何が起こったかわからない様だ。
「キュアヒール!」
異変を察知した聖女が、速攻で回復魔法を発動させる。
恐らく、状態異常を回復する魔法だろう。
遠距離から飛ばせるのは便利ではあるが、だが無駄だ。
俺の永久コンボは全ての耐性を無視し、回復手段も無効化する。
「くっ……効かないって事は、例のスキルね」
「あんな水飛沫でも攻撃扱いになるなんて……」
これで残りは女子3人だ。
こちらもさっきの攻撃でダメージ無効を2回使ってしまっているので残りは一回だけだが、まあ何とかなるだろう。
俺は無造作に剣を振るう。
狙いは捕らえた3人の心臓だ。
「が……ぁ……」
「グェ……」
「うぐぁ……」
3人は断末魔の声を上げて床に崩れ落ちた。
かかっていた永久コンボが消え、その死を俺は確認する。
「ふんっ。動けない相手にも容赦なしってわけね」
永久コンボで動きを止めたのなら殺す必要はないと思うかもしれないが、このスキルには30秒縛りがある。
それを気にしながら戦うのは正直面倒だったので、始末しておいた。
どうせ生き返らせられるのだ。
殺してすっきりした方が、余計な心配をせずに楽に戦えるという物。
「当たり前だろ。アイリーンにつくってんなら、相手が誰だろうと容赦はしない」
まあ実際は殺したいほど彼らが憎い訳ではないので、聖女だけは死なせずに生かしておくつもりではあるが……それをわざわざ相手に教えてやる必要はない。
自分だけは殺されないと知れば、開き直って戦われてしまうからな。
死への圧迫はちゃんと受けてもらう。
相手に余裕を持たれるより、その方が絶対に戦いやすい。
「さて、残りは3人だ……どうする?俺の狙いはお前らの後ろにいる糞女だけだ。降参するってんなら、見逃してやってもいいぜ」
俺の言葉に、3人が顔を合わせた。
何せ既に5人も仲間がやられているのだ――まあ明神を殺したのはガンナーの高津ってやつだが。
さっきも4人がかりで返り討ちにあっている以上、村内あてと残りの3人で俺と戦うのは相当リスキーなはず。
まあ彼女たちは洗脳されているので、それが強力な物なら上手くいくかは正直アレだったが……その反応を見る限り、存外上手くいくかもしれない。
その表情は明らかに迷っているものだった。
「それは困るわね」
「え!?」
言葉と同時に、聖女である茶髪の首が飛んだ。
次にローブ女子の胸から剣先が生える。
「ぐっ……ぶ……なん……で?」
その剣の持ち主はアイリーンだった。
その手にした剣が、背中から彼女を突きさしている。
「アイリーン!冗談でしょ!」
「今あなた達、私の事を裏切ろうとしてたでしょ?」
アイリーンが笑顔で剣を引き抜くと、ローブを着た女子は力なく崩れ落ちた。
そしてその剣を迷わず、おさげの女子に振るう。
彼女は咄嗟に手にした短剣でそれを防ごうとするが、その短剣ごと体を袈裟切りにされてしまった。
「う……あ……」
倒れた彼女は、少し呻いてそのままこと切れた。
……え?
まじかこいつ。
全員殺しちまいやがった。
聖女まで殺したら、誰も生き返せなくなるってのに……
「ああ、心配しなくてもいいわよ。蘇生魔法なら私も使えるから。ふふ、これで私を殺せなくなったわねぇ」
アイリーンがにやりと嫌らしく笑う。
どうやら気づいていたようだ。
俺がクラスメートを蘇生させること前提で殺している事に。
聖女を殺せば、その蘇生はアイリーン頼りになる。
自分の命に保険を掛けるために、この女は聖女を殺したのだろう。
「……」
まあ別にいいさ。
聞き出したい情報があるので、初めっからアイリーンを殺す気はなかった。
素直にこの糞女が蘇生に応じるとは思えないが、永久コンボで固めてぼこぼこにしてやれば少しはその考えも改めるだろう。
とにかく今は、こいつに永久コンボ決める事だけ考えよう。
「ふふふ、一対一。しかも相手はただの女。なら簡単に動きを封じられると思ってるでしょう?」
逆だ。
おさげの女子を切った時のあの太刀筋。
下手をしたら明神達以上だ。
むしろ何でこいつこんなに強いんだって、思ってるよ。
そもそも俺の強さと能力を知ったうえで、残った3人を殺しているのだ。
それはアイリーンが1対1でも、俺に勝つ自信がある何よりの証拠だった。
恐らくまだ、何らかの隠し玉を持っているはず。
「私の力。見せてあげるわ」
「!?」
言葉と共に、アイリーンの全身がオーラの様な膜で包まれる。
それを見て俺は目を見開く。
――明神の使っていたスキルだ。
明神はそれを勇者だけのスキルと言っていた。
クラスではなく奴固有のEXスキルの可能性もあるが……少なくともアイリーンが勇者という事はありえない。
何故この女が……いや、そうか。
アイシャさんは言っていた。
スキルマスターは、王家のみが継承するクラスだと。
その特徴は、他者からスキルを習得する事だ。
つまりこの女も……
「驚いた?私は8人全員のスキルを習得しているのよ。蘇生が使えるのもそのお陰」
8人全員のスキル?
いや、無理だろ。
基本ずっと一緒にいたリーンが、俺から3つしかスキルを習得できていないのだ。
他の奴らのスキルの数は、村人の比ではないはず。
全部習得できているわけがない。
ハッタリだ。
とは言え、今使っているオーラは疑いようがない。
実際に使って見せているわけだからな。
魔人との事を考えると異世界人を死なせたままの訳がないので、蘇生も事実だろう。
ん? いやでも、魔人はホラだってアイシャさんは言っていたな。
て事は、まさか蘇生の方もハッタリか!?
「滝谷竜也。いいえ、今はバーンって言った方がいいかしら。あなたのスキルも私に頂戴」
「!?」
言葉と同時にアイリーンの姿が消える。
どこに消えた!?
「ぱぁ!」
突然シーが、俺の真横に攻撃を仕掛ける。
そこには剣を振りかぶるアイリーンの姿が――
「ちっ!ホーリィシールド!」
アイリーンの左手に光の盾が生まれ、シーの見えない攻撃を弾く。
そこに一瞬のスキが出来た。
俺は後ろに飛んでその間合いを離す。
間合いを離してから、今のは攻撃した方がよかったかもしれないと思ったが、まあ仕方ない。
歴戦の戦士ってわけでもないのだ。
俺にそんな咄嗟の判断力があるわけもない。
「高津とパラディンのスキルか……」
瞬間移動は、俺との戦いで見せた高津のスキル。
そしてシーの攻撃を弾いたのは、パラディンのスキルだろう。
全部かどうかは置いといても、有用なスキルを複数持っているのは間違いない様だ。
「ふふふ。他にも色々とあるから、その身で楽しんでちょうだい」
アイリーンは楽し気にそう告げると、無造作に俺へと突っ込んでくる。
相当自信があるのだろう。
自分が負けるとは欠片も考えていない、余裕の表情。
その高慢な鼻っ柱を――
「へし折ってやる!」
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